第6話 ライオネル

何でこんなにヨハンのシステムは上手くいったのか?

そもそも全ての選手が1対1という状況になるマンツーマンということであれば

本来ならバルセロナの方が圧倒的優位の立場にいる。

それはもちろん個人のレベルの差である。

バルセロナには各国の代表スタメンメンバーでできている。

それに比べてレガレスはチラホラいるくらいで、世界ランキングで言うと上位の国のメンバーは少なく、スタメンで定着している数も少ない。


ともすれば

DFラインのビルドアップにはもちろん苦しんでいたが

ひとたびトーレス、ライオネル、アロンソらにボールが渡ると

彼らは1枚のマークなど何事も無かったようにプレーを進めてしまうからだ。




そこでもヨハンは案を練っていた。



オールコートでマンツーマンを実施しながらも

バルセロナの前線にボールが渡ってしまったら、

レガレスの前線の選手は一旦マークを捨ててプレスバックし、直ちに数的優位を作る。



何とマンツーマンをやりつつ、

局面局面でゾーンディフェンスの利点までをも総動員させてバルセロナを止めにかかったのだ。



もちろん、レガレスの体力面での負担は相当なものだろう。



これがもし超一流どころの選手を揃えたチームであれば

通らなかったであろう無理難題やプレー。

だが彼らはヨハンを信用して取り組む。

その為のメンバーをヨハンは4年かかって集めたからであった。



後半が始まる。

両チームとも選手の交代はない。

バルセロナはレガレスのブレッシングを剥がす為に

得意の降りてくるCFこと通称0トップで臨んでくる。


レガレスのDFを放置プレーにさせて中盤で数的優位を作ろうという狙いだ。


『バルセロナはシステム変えてきましたね。』


「そうですね。前半でやってこなかったのは体力が持たないと踏んでですかね。

バルセロナは後半になって一気にギアチェンジしてくると思いますよ。」


だがヨハンはこのことも想定済みだ。


降りてくるならDFも付いて降りてこようという作戦であった。

そのためピッチ内の至る所にスペースが生まれる。

時にはピッチ内の右半分に誰もいないことすらある。



バルセロナの選手がいないのであれば、スペースはただのスペースでしかない。

空けても使わせなければいいという割り切った考え方をとった。

こんな前例はない。

あるとすれば、ここまでシステムチックになる前の時代、そして幼少期のサッカーくらいではないか?

だがこの作戦も功を奏し、バルセロナは攻め手を欠くのであった。


だが世界最高プレイヤーも黙ってはいない。

自分でパスを呼び込むといとも簡単に一人抜く。

そして緩急をつけたフェイントでゴール前まで侵入していく。

前半はハーフコートまでであったらファウルで止められることも多かったライオネルだが

相手の体力切れもあるのか、段々と彼にもボールが入るようになっていた。


そしてマンツーマンを利用して彼のスペースを味方も開けていく。



そして小さなフェイントをいれ

振りの早いキック。

ボールはゴールネットへと吸い込まれた。


後半16分


2-1


これはもうライオネルに拍手である。

元々この失点はしょうがないと腹を括っていた。

レガレスとしては1点は妥協点であるという認識であった。

残り30分。

想定していたより5分ほど早いがまあいい。

ヨハンは交代のカードを切るのであった。

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