にゅうめんマン最大の敵(11)

「気が付いたようだな」

 多麻林の意識が戻ったことを確かめると、にゅうめんマンは「よっこらせ」と立ち上がった。

「ああ。勝負はここからだ。ようやく面白くなってきたな」

 多麻林は答えた。見え見えのはったりだった。


「お前も本当にしぶといな。俺がその気になったら、意識を失っている間にとどめを刺すことだってできたんだぞ。それ以上戦っても大事な体を痛めるだけだ。もう抵抗するのはやめておけ」

「『やめておけ』だと?ひやむぎを侮辱したお前を、俺が許すと思っているのか。みくびられたものだな」

 そう言うと、多麻林もふらつく足で立ち上がり、十年一日のごとく、にゅうめんマンの胸にパンチを打ち込んだ。そのパンチがあまりにへろへろだったので、にゅうめんマンは、あえてよけることさえせず、実際、攻撃を受けても痛くもかゆくもなかった。にゅうめんマンがお返しの張り手を見舞うと、多麻林は枯れ木のようにあっけなく倒れた。


「……まだまだぁ。ガンガン行くぜぇ」

 多麻林は再び立ち上がり、へなへなのパンチを、今度はにゅうめんマンの顔に向けて放った。にゅうめんマンはそれを片手でたやすく受け止め、反撃する代わりに多麻林にたずねた。

「勝ち目がないことは自分でも分かってるんだろ?なんで、そんな無駄な抵抗を続けるんだ」

「すでに言っただろ。俺はひやむぎを侮辱したやつを決して許さないと。我が身のかわいさのためにひやむぎを見捨てるくらいなら、俺は敵と戦って死ぬことを選ぶ」

「本気で言っているのか」

「本気さ」

「それなら、その言葉どおり、お前には死んでもらうことにしよう。俺としても、結果の出ているこんな戦いにいつまでも付き合うつもりはないからな」

 にゅうめんマンは、多麻林に必殺の一撃を繰り出すために身構えた。

「本当にいいのか」

「くどいぞ。どんと来い」


「よぉし。受けてみろ!必殺 大噴火アッパーカァァーーット!!」

 にゅうめんマンは、かつて強敵を打ち倒すのに使った必殺技を、多麻林のあご目がけて放った。これを受ければ相手はひとたまりもないはずだ。多麻林は覚悟を決めているらしく、かわそうとも防ごうともしなかった。


――だが、にゅうめんマンは、相手に触れるか触れないかぎりぎりの所で、拳の動きをぴたりととめた。

「負けたよ。お前の強情さには。なんでそこまでして抵抗するのか理解に苦しむけどな」

 すると、命拾いした多麻林が言った。

「そうかい。それならこう考えてみろよ。お前が俺の立場だったとして、にゅうめんを侮辱した敵に、お前は膝を屈するのか」

「!」


このとき、にゅうめんはようやく理解した。なぜ多麻林が、死ぬことさえも恐れずに、このようにかたくなにあらがうのか。もしにゅうめんマンが多麻林と同じ立場だったら、やはり、勝ち目のない敵に降参するよりも、大義のために死ぬことを選ぶだろう。にゅうめんマンがにゅうめんを愛するのと同じように、多麻林はひやむぎを愛しているのだ。だからこそ、ひやむぎをバカにする人間には死んでも負けを認めることができないのだ。――単純な話だった。

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