にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む(6)
「しかし、世の中悪いことばかりでもない」
と、シャカムニは話を続けた。
「発毛をあきらめた私は、自分が進むべき本当の道が分かるようになった。それ以降、心の平安を得るための修行を始め、自分の髪が薄いという現実とも折り合いを付け、最終的には人生に満足できるようになった」
「それが仏教の始まりですか」
「そうだ。――ちなみに、もう1ついいことがあった。私が発毛の修行で手に入れた力は、害のない程度に加減して使えば、大いに人の役に立つことが分かったのだ。毒も薄めれば薬になる場合があるが、それと同じだ。君に授けた超人力も、元々発毛のために開発した力の応用だ」
「結果オーライですね」
「ところが1つ問題がある。私がまだ人間として暮らしていたときラゴラという息子がいた。ラゴラは父である私と同じく若ハゲの兆候を示していた、この息子がいけなかった」
「どういけなかったのですか」
「髪への執着が強すぎたのだ。ラゴラは私の反対を無視して、私が中止した発毛の修行を再開した。ただし、私は詳しい方法を教えなかったので、ラゴラは発毛法の大部分を自分で研究し直すことになり、結局目的を達せられないまま死んだ」
「なぜそれが問題なのですか」
「ラゴラの始めた研究はそこで終わらず、直属の弟子たちに引き継がれた。ラゴラ教と呼ばれるこの集団は思ったよりもしぶとくて、極小規模ではあるが、二千数百年たった現代まで存続している。そして、現在の代表者が宗教法人六地蔵の管長というわけだ。もっとも、管長はラゴラ教のことは世間に伏せているようだが」
ここまで聞いて、にゅうめんマンはようやく話の全貌が見えてきた。
「ということは、あの管長は、にゅうめんに込められたシャカムニの力を利用して髪を生やしたいのですか」
「十中八九そうだろう。先ほど言ったように、無理に発毛をすれば精神に害を及ぼすのだし、ろくなことにはならないが」
「そんなしょうもない目的のために三輪さんを危ない目に合わせたのか!許せん!!」
怒りに駆られて、にゅうめんマンは受話器を持つ拳を握りしめた。
「管長の気持ちは分からないでもないが……」
シャカムニがぼそっと言った。
「何か言いましたか!?」
「なんでもない」
* * *
シャカムニとの通話を終えたにゅうめんマンは、レトロな電話の受話器を置いた。シャカムニにも三輪さんの行方が分からなかったのは残念だが仕方がない。この日はもう遅いので行かないが、次の日に直接宗教法人六地蔵を訪問して、三輪さんのことを聞いてみるつもりだ。
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