にゅうめんマン vs 理科系の男(7)

「現代医学チョォォーップ!!」

 にゅうめんマンは反射的に両腕を前に出して坊主のチョップをガードしたが、次の瞬間、攻撃を受けた左腕に激痛が走った。だが痛みにひるんでいる余裕はない。さらなる攻撃を避けるために、にゅうめんマンは激しい痛みをこらえてその場を逃れた。


そうして致命傷は免れたものの、こうむったダメージは大きく、傷を負った左腕を動かそうとするだけで耐えがたい痛みにおそわれた。骨が折れたかもしれない。

「片腕がダメになったようだな。もうお前の負けだろう」

 羽沙林は言った。

「何度も同じことを言ってしつこいようだが、大人しくにゅうめんをこちらへ渡せ。私は必要に迫られて戦っているのであって、元々人を痛めつけるような趣味はないのだからな」

「お前が強いことは認めるが、にゅうめんを渡すつもりはない」

「自分の立場を分かっているのか。これを断れば次は腕を痛めるぐらいでは済まないぞ」


確かに片腕で戦わなければならないのは大きなハンデだ。――だが、実は手加減していたのは羽沙林だけではなかった。にゅうめんマンも「大怪我をしたり、それ以上の事故が起こっても知らないぞ」と口では言ったものの、相手が死んだりしないように最低元の手心を加えて戦っていたのだ。

「どうやらこちらも奥の手を出すしかないようだな」

 にゅうめんマンは答えた。片腕が動かなくなった今にゅうめんマンは危機的な状況にあり、もはや手加減をしているゆとりはない。――今こそ、やることがなくて困っていたときに自宅で暇つぶしに開発した「新必殺技」を試す時だ。

「奥の手?」

「そうだ。――ヨーロッパ最古の文明、ミノア文明衰退の原因になったとも言われるエーゲ海サントリーニ島の大噴火。天地を揺るがし大空高くマグマを噴き上げる、その火山のように力強い味わいを持つにゅうめんを心に描きつつ、俺が編み出した必殺技だ」

「よく分からん技だが、面白い。やれるものならやってみろ」


その言葉に甘えて、にゅうめんマンは技を繰り出すために精神を集中した。

《高まれ、俺の心のニューメニティ……!!》

 すると、にゅうめんマンの身の回りに七色のオーラが現れた。最初ぼんやりしていたオーラは徐々に凝り固まり、やがて見るも恐ろしいにゅうめんの形をとった。それを見ていた羽沙林は得体のしれない恐怖を感じ、にゅうめんマンに攻撃を仕掛けた。

「現代医学チョォォーップ!」

 同時に、にゅうめんマンも必殺技を放った。

「大噴火アッパーカァァァット!!!」

 すると奇跡的なタイミングで、水平チョップを繰り出す羽沙林の右手とアッパーカットを打ち上げるにゅうめんマンの右手が激突した。現代医学チョップは驚くほど強力な技だが、にゅうめんマンの「大噴火アッパーカット」はそれをもしのぐ威力を持っていた。羽沙林は自分の攻撃を弾かれた上に、にゅうめんマンのアッパーカットをくらって巨体が宙に浮くほどの打撃を受け、落ちるように地面に倒れた。長い戦いにようやくけりがついた。

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