にゅうめんマンの過去(4)

「その話は本当なのか」

 にゅうめんマンは平群さんに確認した。

「もちろん」

 平群さんは答えた。

「ちょっと待ってください」

 ここで三輪さんが口を挟んだ。

「本人を無視して話を進めないでください。私の手は私のものです」

「嫌なの?」

「そういうわけではないんですけど」

「じゃあ今正式にお願いするから、にゅうめんマンが強さの秘密を教えてくれたら手を握ってあげてください」

「はい……」

 何か釈然(しゃくぜん)としない様子ではあったが三輪さんは同意した。

「決まりだね。――それじゃあにゅうめんマン。説明してちょうだい」

「よし」


おほん、と咳払いをしてからにゅうめんマンは語り始めた。

「みだりに人に話すべきことではないんだけど特別に教えよう。――俺はシャカムニ特製のにゅうめんを食べることによって超人的な力を得ているんだ」

「へえ……そうだったんだ。それはいつ食べてるの?」

「毎日」

「朝昼晩のうちいつ食べるの?」

「朝と昼と晩」

「それ以外のものは食べないの?」

「たまに気分を変えて他のものが食べたくなったら、自分で材料を買って来てにゅうめんを作ることもある」

「気分を変えたいなら、にゅうめん以外のものを作ればいいのに……」

「別にいいでしょ」

「そのにゅうめんはどこで手に入るの?」

「シャカムニから直接授(さず)かる以外に手に入れる方法はない」

「なるほどね……」


平群さんは他に聞くことがないか考えているようだったが、どうやら納得したらしく、三輪さんにこう言った。

「じゃあ三輪さん。よろしく」

 にゅうめんマンと向き合う形で席に着いていた三輪さんは、椅子から立ち上がってにゅうめんマンの座っている椅子の脇へ移動した。にゅうめんマンも立ち上がった。

「手を出してもらえますか」

 三輪さんは言った。にゅうめんマンが恭(うやうや)しく右手を差し出すと、三輪さんは色の白い両手でそっとそれを握った。にゅうめんマンはされるがままに大人しくしていた。


「どうしたの。何か気に入らないの?」

 思ったよりも神妙なにゅうめんマンの態度を見て、平群さんがたずねた。

「とんでもない。世の中にこんなに幸せなことがあるなんて信じられないくらいだ」

「ちょっと手を握られたくらいで大袈裟(おおげさ)ねえ。それにしても、それならもうちょっと嬉しそうにすればいいのに」

「思わず考えてしまったんだ。自分は今こうして人生のピークを迎えているわけだが、ここに至るまでには色んなことがあったなあと」

「それが人生のピークなの?」

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