にゅうめんマンの過去(3)
「顔を見せてもらうのはあきらめるから、1つ教えてちょうだい」
「何を?『人はなぜ生きるのか』とかきかれても俺には答えられないよ」
「そんなこときくわけないでしょ。私がききたいのはにゅうめんマンのパワーのこと。あなたの人間離れした強さはどこから来るの?」
「それはほら……あれだよ。あれ」
「どれよ」
「つまり……毎日体を鍛えてるから強いんだ」
「100人以上の坊主を1人で簡単にやっつけたって聞いたよ。普通に体を鍛えただけでそんなに強くなるとは思えない。何か秘密があるんでしょ?」
「……」
答えたくない事情でもあるのか、にゅうめんマンは少し考えるような素振りを見せた。そして、とりあえず目の前のにゅうめんをすすった。
「ちょっと。私の質問を無視してにゅうめんを食べないでよ」
「もたもたしてるとめんが伸びる。平群さんも手遅れになる前に早く食べた方がいい」
「手遅れって……。でもまあ、確かに伸びる前に食べた方がいいね」
そういうわけで3人は大人しく食事を再開した。だが、「心ここにあらず」という平群さんの表情を見れば、この人が、にゅうめんマンの強さの秘密を聞き出すために必死で頭をひねっていることが察せられた。一方のにゅうめんマンは、ろくろを回す陶芸家のような面持ちでにゅうめんを味わっていた。
* * *
しばらくして全員が食事を終えてから、平群さんはにゅうめんマンではなく三輪さんにたずねた。
「ねえ。三輪さんもにゅうめんマンの強さの秘密が知りたいでしょう」
「ええ。実は私も前からすごく気になっていたんです」
大学院まで行って研究をしているだけのことはあって三輪さんは好奇心が強い。こういう話にもしばしば興味を刺激されるのだった。
「そうだよね。三輪さんも気になるよね!」
そう言ってから、平群さんはくるっとにゅうめんマンの方を向いた。
「ねえ。にゅうめんマン」
「今度は何?」
「にゅうめんマンが何でそんなに強いのか教えてくれたら、三輪さんが手をにぎってくれるって」
「えっ!」
「えっ!?」
これにはさしものにゅうめんマンも驚いたが、なぜか自分が手をにぎることになっている三輪さんも驚いた。
「どう?あなたは三輪さんのこと全然嫌いじゃないみたいだし、興味あるでしょう?」
平群さんは自信満々でにゅうめんマンに言った。
「おいしいにゅうめんをご馳走してもらった上に、きれいで優しい三輪さんに手までにぎってもらえるなんて『盆と正月が一緒に来たみたいだ』とか思ってるんじゃないの」
自分の考えていたことを完璧に言い当てられて、にゅうめんマンは色を失った。
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