第3話 噂をすれば


よろしく頼まれてしまっては、断ることはできない。

そうか、普通はここのことは知らないんだもんね。


改めて言われてしまうと、困ってしまう。

どうすればいいのだろうか。

学校でもなかなか会えないし、特別仲が良いわけでもない。

石段を下りながら悩む。


「木下さん、こっちだ!」


階段の下で誰かが大きく手を振って、手招きしていた。


「いいから早く! 急いで!」


「ちょっと待って、分かったから! 待って!」


よく分からないまま、言われるがままに階段を下る。

そのまま走り出し、曲がり角まで向かう。


途中から背格好で気づいてしまった。

私がついていけるくらいの速さで走っているのもそのせいだろう。


途中で足を止めて、声をかけてきた彼をにらむ。つい先ほど話題に上がった猫みたいな髪をした少年だ。


「分かっててやってたでしょ? 霧崎君」


「ばれちゃった? 急に驚かせてごめんな」


マスクを下ろして、笑顔を見せる。

本人はあまり悪びれている様子もない。

噂をすればなんとやら、か。


「一体どうしたの?」


「たまたま見かけたから、声をかけてみた」


そんな声のかけ方、誰もしないよ。

人で遊ばないでほしい。

そんなだから鬼からも心配されるんだよ。


「ちょっとの間でいいからさ、付き合ってくれないかな」


「別にいいけど、本当にどうしちゃったの?」


学校が休みの間に何かあったのかな。

梅雨さんに言われたことを思い出し、嫌なことばかりを考えてしまう。


「いやー、家にいても外にいてもつまらないから、どうしたもんかと思ってたところだった

んだ」


「永瀬くんのところに行ってるのかと思った」


「いや、アイツからも来るんじゃねえって言われちゃってさ。

そのうちマジで乗り込んでやろうかと思ってたところなんだけど……」


気軽に遊べる友達がいるというのに、お互いに見えていないものがある。

本当に不思議な話だ。


すれ違う人々は商店街をうろつく私たちを半目で見ていた。

学校をサボる不良と思われたか、あるいはこんなときに外に出てるなんてと非難しているのか。


「気にしなくていいと思うよ、家で遊ぶ方法ってのを知らないだけなんだろ」


視線を追い払うように片手を振った。


「じゃあ、家で何してたの?」


「あれ、言ってなかったっけ?

音楽作ってるって、周りに言いふらしてたつもりだったんだけど」


「私は初めて聞いたよ」


その周りが何人なのかが怪しいところだ。

数人に言いふらしただけでは、噂のタネにもならないと思う。


この長期休暇を利用して、師匠となる親戚の下で勉強しているらしい。

裏でそんなすごいことをしていたんだ。


私なんてマスク作ってたり、本を読んでたり、ゲーム買って遊んでみたり、そこまでアクティブなこともしていない。


あの神社で会ったときを思い出す。

つゆさんとは違ったカッコよさがある。

生命力があまり感じられない、儚いイメージだ。


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