試験二日目
第16話
「なんだこれ……ってか、ヤバイだろ」
テレビからリポーターの興奮した声が聞こえてきた。
『――が大統領に就任して以来、数々の新しい法律が生まれてきましたが、今回はなんと人殺し権という名前の制令が――』
その大袈裟に抑揚をつけて喋る男性の声を聞きながら、このことを渡邉が知っているのかどうかが気になった。
日本政府のことだから逸早く把握するであろうが、なんといっても民放のワイドショーだ。この番組を見ていない可能性もある。
俺はテレビ画面から目を離さずに、携帯電話を手に取った。
「おはようございます。渡邉でございます」
今朝も、全く待つことなく繋がった。
「おはようございます。えっと、あの……」
「滝沢様。恐れ入りますが昨日の件でしたら、今しばらくお待ちいただけませんでしょうか。まだこちらの方針と――」
渡邉の話が長くなりそうな予感がした俺は、早々にその話を遮った。
「いや、それは待つから。そんなことより大変なんだよ!」
遮られた渡邉はなんとも不服そうに、「そんなことよりと仰いますが、私は滝沢様のために様々な策を練り、根回しに奔走しておりますのに……」と、電話の向こうでブツブツ言っている。
「あ、ごめん。いや、そうじゃなくて、渡邉さん! テレビで人殺し権のことやってるんだけど、見てる?」
「……は?」
「やっぱり見てなかったんだ。今から試験を依頼された女性が生出演するって言ってるよ!」
「あの……私、夢でも見ているのでございましょうか……」
あまりの惚け振りに笑いそうになるが、今はそれどころではない。これは、俺自身の身にも面倒が降りかかる種なのだ。
「夢じゃないから! とりあえずテレビつけて! ○チャンネル!」
「あ、はい。少々お待ち……え……あっ……あーっ!!」
『――というわけで、三人がこの試験者として選ばれたそうです。そのうちのお一人、Kさんが昨日それを実行されました。我々は彼女が依頼を受けた直後から極秘密着取材をしまして、この度スクープ映像を――』
「こっ、小池さ……なんと……」
「やっぱり渡邉さん知らなかったんだ。いいの? これって」
「ぞ……存じあげませんでした。こんな……」
呆然としている渡邉のことは気の毒に思うが、テレビ放送は彼を待ってはくれない。
「ちょっと、しっかりしてくれよ! これ放っておいていいの?」
電話口から短く息を飲む声が聞こえた。
「滝沢様、ありがとうございました。早速対処いたします。これは滝沢様にも掛かる問題でございますので、また随時ご連絡差しあげます。それでは不躾ではございますが、これにて失礼いたします」
俺の返事を聞かずに、電話は慌ただしく切れた。
『CMのあと、いよいよKさん生出演です!』
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