第11話
「これって……」
「はい。現時点ではまだ案でございますが、試験にはこれが使用されます」
「ここに俺の名前が入るってこと?」
俺は本文一行目を指差した。
「おっしゃるとおりでございます。こちらにはお相手の方、そしてこちらには滝沢様のお名前が印刷されます」
「この三時間って?」
俺の問いに、渡邉は静かに答えた。
「はい。通知後に他者と連絡を取られますと、その第三者を巻き込む可能性が非常に高くなります。また、それが身内の方ですと、被試験者――例えば滝沢様の感情が揺れないとも限りませんので」
「……感情?」
「はい。先ほど例に取りました大家族の母親というのをもう一度引き合いに出させていただきますが、もしも乳飲み子が母親の足元に縋り付いていたとしたら、滝沢様は何も思われず迷われることなく、その子の目前で母親を殺害なさることができますでしょうか」
考えなくても分かっている。そんなことができるわけがない。
「そんな……そんなこと、俺には……」
「滝沢様」
俺の言葉を遮って渡邉が静かに、しかし強い口調で言った。
「これは抗えないのです。あなたも私も、被試験者として定められた以上、避けることはできないのです。許されないのです」
「でも、俺こんな……そんな……」
「次に!」
俺の言葉は、再び渡邉によって遮られた。
「次に、殺害方法でございますが、刺殺、毒殺、絞殺の三種類からお選びいただきます」
「三種類……」
「はい。どれも一長一短でございますが、お好みの方法で実行していただきたいと存じます」
「お好みって……」
殺し方に好みなんてあるわけがない。そんな俺の気持ちを察したのか、渡邉は「滝沢様がどうなさるのかは分かり兼ねますが」と前置きをして、詳しい説明を始めた。
「これが正式に施行されますと、大半の方は恨みや憎しみを持つ相手を殺害するであろうと思われます」
「そりゃ……そうだろ。だって、好きな相手やなんとも思ってない人を殺す意味ないじゃないか」
「おっしゃるとおりでございます。そこで、この三種類の殺害方法が意味を成すのでございます」
俺はここまで聞いても、まだ分からなかった。
「意味って?」
渡邉はにっこりと微笑んで、さらりと言った。
「相手を一思いに殺害されたい場合は、刺殺がお勧めでございます。返り血を浴びますが、それも殺害したという充実感につながることでございましょう」
黙って聞いていた俺は、思わず身震いした。
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