おそらく昨日神と飲んだ

DJぱれーど

10円のサンキュー

ありったけ困ったときどうする、いつの間にか祈ってる


努力もせずに開き直って、何もしない


いるかどうかも分からないよく知らない神様とか呼ばれる隣人に

ねだりに近い祈り、願い、眼前に迫ることから目を背ける


神はそんな輩をどう思っているのだろう






昨日。


昨日はあんまりに寝付けない夜だった。


いや眠れないのか寝付けないのかは考えられなくなっていた。


もう寂しさ、虚しさ、悲しみ、苛立ち、不愉快、この世のマイナスを全て引き受けようか、なんていっちゃって、本当に引き渡されたような夜だった。


こんな夜に会いたくて震えるような女性もいなければ気の置けない友人なんてやつも1人もいない、さみしいもんだよ、彼女もいないし友人もいないどうしようもないサラリーマンだよオレってやつはさ。


そんなやつのためにやってますって体裁で立ち飲み屋は存在する。蒲田という街では、オレみたいな不幸でもないのに不幸そうな面下げてふらりと来ているやつが溢れているように感じる。ギャンブルで負けたやつ、社内で「妖精さん」とあだ名をつけられたやつ、妻が突然出て行った感じのやつ。そんな想像がつきそうなよくわからん生態のやつらを受け入れるための立ち飲み屋。

そんな奴らと最初はなんとなく会釈程度なんだけど気づいたら赤ら顔で肩組んではお互い『シャチョー、シャチョーはどーなのよ』なんて殉職もしていねーのに何階級特進したんだかわからん肩書きで話しているんだ。




「この国はやばいなあ、ほんとやばいなあ、何だアベって、そもそもソウリってなんだ、PTAの会長みたいな名誉職か、ありゃあ父兄通り越して不敬だね、」


「まったく、この国ってのはあれだね、沈み行く船だね、」


「最初っから沈んでんじゃないの?、」


「先導できない船頭ならワンピースなんてみつかんねえよ、」


「ほんとだめだね国民の扇動すらろくにできやしねーじゃねーか、」、、、


こんな愚にもつかない会話をもっともらしくするくせに批判ばっかりして解決策のひとつも打ち出せない我々はクソみてえな会話を幼稚園児から大人になるまでやって死に至るために生きているんだ。


国民総出でデスパレードっつー話だよ。


そう思った矢先、


なんだかんだ陰鬱な気持ちを安いアルコールをつかって悪態ついて明るくなる、そうまるで夜明けというものの代弁者であるかのように人は生きている、と思考して、明けない夜なんてないと言った陳腐な言い回しが陳腐たらしめる理由を了解するのだ。


幾分寂寥感だか焦燥感だかが一服したところで左隣にいたシャチョーが会計をしようとした。時間も頃合いだった。あわせてオレも会計した。


向かう方面が同じだったシャチョーは、寒くなってきたようなふるまいをして、ふと自販機の前で立ち止まった。


缶コーヒーを買おうとしていた。


ところどころシャチョーのだらしない背格好に遮られた自販機の光が一瞬シャチョーのオーラみたいになってきれいだった。


シャチョーは酔っ払って自動販売機に凭れながら、

「なんだ、おい、ずいぶんとお高くなったなあ、おい、若いの、10円渡しとけ、」


「かぁーっ、ずいぶんとしけたシャチョーだね、缶コーヒーも買えねーのかい、」

オレは、指先ではじくようにして10円を渡した。


「若いの、おまえはラッキーだな、俺に貸しを作れるなんて、」


「だからといってその10円でシャチョーにねだったりしてもしゃーないでしょ、いまどきお賽銭にもなりゃしないよ、」


「ははは、面白いこというねえ、でもな、オレこう見えてよく祈られたり願われるんだよ、助けてください御願いしますって、オレそういうの苦手でねえ、」


「得意なやつなんていねーよそんなの、」


「でも多いんだよ、たいていめんどくせえなあって思ってほっとくんだけどさ、」


「そりゃー、えげつない仕事してるからじゃないのー、」


「えげつない仕事か、そうかもねえ、まあまあ、お前さんはいいことあるよ、なんせオレに貸しを作ったんだから、」


「はいはい、そりゃよかったよ、またどこかで会えたらその借りを返してくださいな、」


「おお、じゃーな、若いの、サンキューな、」


サンキューか、感謝で終わる1日も悪くないな、ボソリと独りごちて、しけった風に押されながらハナウタにまでいかない声を出して帰った。

当然、マイナスな感情なんてものは完全に忘れていた。

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おそらく昨日神と飲んだ DJぱれーど @paradecustom

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