【閲覧注意】本当にあった都市伝説〜常磐線編〜
しゃみせん
本当に……?
「ねえ、知ってる? 山手線の上野駅ってさ、昔は踏切があったらしいよ?」
昼休みの終わり頃、幼なじみの
「ふーん。だからどうしたの?」
「えっ!? 上野に踏切があったんだよ!? すごくない!?」
一体何が凄いのか私にはわからないけど、梨花のテンションが高いことだけは分かる。
これは何か良いことあった時のテンションだ。
「で? それは誰から聞いたの?
「な、な、なんでわかったの!? もしかしてひとみも隆二先輩から聞いたの!?」
「そんな訳ないじゃん。あんたの顔に書いてあっただけだよー。それで? 話はそれで終わりなの?」
「もう、ひとみの意地悪! ふふーん、それでね、話は当然終わらないよ!」
まもなく夏休みを迎える学校は、エアコンの付け替え工事を行なっている為酷く蒸し暑い。
だからかわからないけど、最近は学校の中で怪談や都市伝説なんかを話してる人を良く耳にする。
きっと梨花もそんな話を聞いて回って、あわよくば隆二先輩に近づこうとしてたんだろーなぁと勝手に想像しておく。
「それでね、上野の踏切は、今から30年くらい前に高架橋に切り替わったんだって」
「ふーん。まぁ踏切よりは高架の方が渋滞とかなくていいからなんじゃないの? わかんないけど」
「うんうん、もちろんそういう考えもあるよね! でもね、上野は違ったんだって! むしろ上野が高架化するから他の駅も高架にしたらしいよ!」
「それで? その理由って、何?」
ここからは梨花が隆二先輩から聞いてきた話。
その昔、上野の踏切は事故が多発していたそうだ。
ターミナル駅である上野はいくつもの路線が通っており、一度踏切が閉まると中々開かない。
だから、危険だと分かっていても警報を無視して遮断機を潜り抜ける人が後を絶たなかった。
結果、毎日の様に起こる人身事故。
上野に配属になっている駅の職員さんは、その殆どが事故処理経験者という珍しい場所だったそうだ。
そうしたベテラン職員の集まる上野駅では、良いか悪いか、大抵の事故はあっという間に片付いてしまったそうだ。
だが、一件だけどうしても遺体の一部が見つからない事故が発生したらしい。
当時の駅長の判断で、遺体回収ならずともそれ以上のダイヤ乱れは認められず、一部未回収のまま列車の運行がされた事があるそうだ。
その日の最終列車の運行が終わった後、警察も含めて駅職員総出で遺体の一部の捜索を行なったが、その日は見つける事が出来なかった。
その後二日間に渡り捜索は行われたが、遂に遺体の一部は見つからなかったそうだ。
被害者は女子高生。
彼女は無理に遮断機を渡ったのではなく、駅のホームで運悪く酔っ払いにぶつかってしまい、ホームを通り過ぎる急行列車に跳ねられてしまったそうだ。
「その、見つからなかった部分って、……どこなの?」
「左腕だって。それでね、話には続きがあるの……」
女子高生の遺族は、せめて遺体を全て回収して欲しいと懇願したそうだ。だが、探せども探せども一向に見つからない為、警察も駅長も強引に捜索を打ち切ったらしい。
そうして、遂に被害者の遺体の一部は未発見のままこの事故は終わった。
──だが、この事故はそれだけでは終わらなかった。
捜索が打ち切られた一週間後、当時の上野駅駅長が自宅で変死しているのが見つかる。
駅長は奥さんと二人で暮らしており、前日の晩は何も変わったこともなく、来客等もなかったそうだ。
翌朝、起きてこない夫を起こしに部屋に奥さんが入ると、そこには既に死んでいる夫を見つけたそうだ。
……そして、その死体には左腕がなかったという。
不可解な死体に当然他殺も考えられたが、人の出入りしている痕跡もなく、何よりも失われた左腕が見つからなかった為、結局事件は迷宮入りとなった。
そしてそれだけでは終わらない。
駅長の死から二日、次は警察の当時捜索隊の隊長だった人間が謎の死を遂げる。
そしてやはりその死体には左腕だけがついておらず、見つかる事もなかった。
それからというもの、次々に捜索に関わった人間が死んでいった。ある者は自宅で、またある者は職場で。場所も時間も関係はなく、唯一の共通点としては左腕がなかったという事だけだった。
「それってまさかさぁ……」
「そう、多分、その女子高生の怨念。自身の身体を探して、この世界を彷徨って、そして自分に合う左腕を見つけるまでいなくならないっていう話しだよ」
「うわぁ……。なんかベタだけど鳥肌立ったわぁ。怖がりの梨花がよくこんな話聞けたね!?」
「私だって聞きたくなかったよぉ!! でも隆二先輩とお喋りするチャンスだったし、まぁいいかなーって」
「それはそれは、よーござんすね! 怖い話を聞かされただけ私が損してるじゃん!」
「私と話ができたんだから良くない!? それにもしかしたらひとみも先輩達と仲良くなれるかもじゃん!?」
梨花はほっぺたを膨らませて反論してくるが、いつものことだ。私も怖い話は苦手だったけど、蒸し暑い学校でなんだか冷んやり出来たからいいか。
梨花と話をしているうちに、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴る。
「じゃあ梨花、私午後は移動教室だからまたねー」
「うん、じゃーねー! がんばれよ!」
お互い適当に手を振って別れる。梨花の話も気になるけど、私には次の移動教室の席取りが大切だった。
足早に去る私を、梨花が名残惜しげに見つめていた。
「…………それだけじゃ、ないんだよ」
◆◆◆◆◆
エアコンの付け替え工事は急ピッチで進められ、一週間後の月曜日には全教室に冷たい空気が行き渡るようになった。
工事業者さん、土日返上のお仕事ありがとうございます!
そして、それと同時に怪談や都市伝説も下火となり、話をする人がぱったりといなくなった。やはり皆、涼を求めて怪談話をしていたのかも知れない。
「おっ、梨花! おはよー」
「あー、うん、おはよーひとみ」
「どうしたの? 元気ないじゃん」
「別にそんな事ないんだけどさー、ちょっとね」
「どーしたの? エアコンかけ過ぎで風邪ひいたか?」
「ううん、そうじゃなくてさ。いつも隆二先輩と一緒にいる、
「あー、うん、多分分かる。背の高い人でしょ?」
「そうそう。その直樹先輩がさ、昨日から連絡がつかないんだって。隆二先輩から電話がきてさ、超嬉しかったんだけど、その話聞いてなんかオチたわー」
「なんでオチたのさ。せっかく先輩から電話来たんだから良かったじゃん」
「だってさ、それって私が直樹先輩と一緒にいるかもって思われたって事じゃない? やめてよ、冗談キツいわ。隆二先輩以外興味ないし」
「あー、そういうことね。まぁ確かに嫌だね」
「それにさ……」
梨花が何か続けようとした時、正面から隆二先輩が歩いてくるのが見えた。
「あっ! 隆二先輩!! じゃあね、ひとみ! またね!」
梨花は現金な奴だった。さっきまで元気がなかったはずなのに、そんなの嘘みたいに軽い足取りで隆二先輩のもとへ向かっていった。
まあ、いつもの事だからいいんだけどね。
でも、梨花は何を言おうとしたんだろう? 忘れてなければまた後で聞いてみよう。
その日、私は梨花に聞くのを忘れて帰ってしまった。
そして翌日、通学路で見かけた梨花は昨日よりもさらに落ち込んだ顔をしていた。
「梨花おはよう。今日は顔が酷い事になってるぞ! どーしたんだよ?」
「あ、ひとみ……。おはよ……」
私のボケにも突っ込まず、焦点の合ってない目で前を見つめる梨花。これは本当に何かあったんだろう。梨花の様子は明らかにおかしい。
「ねえ梨花、何があったの!? 本当に大丈夫!? 顔、真っ青だよ!」
「えっ……? そう、かなぁ……。だ、大丈夫だよ。わ、私は大丈夫、絶対、大丈夫なんだから……」
そう言いながらも梨花の身体はブルブルと震え出してしまった。
「ちょっと梨花!? 何言ってるの!? 先生には言っておくから、帰りなよ! ってか私が連れて帰るわ! ほら、おいで」
梨花はかたくなにその場を動かなかったが、私は腕を無理矢理に掴んで元来た道を引きずって家に連れて帰った。
梨花の家は共働きで、私達が着いた時には既に家に誰もいなかった。
勝手に上がらせてもらい、梨花をベットに寝かせる。その間梨花は何も言わずに、私にされるがままだった。
「ねえ、梨花。何があったの? どう見たっておかしいよ。私にちゃんと教えて」
「……ひ、ひーちゃん……!!」
梨花は昔の呼び方で泣きながら抱き着いてくる。この呼び方で来る時は何かあった時だけだ。
私は梨花の背をゆっくり、優しく撫でながら落ち着くのを待った。
しばらくしてやっと梨花が泣き止む。だが、その顔は決して晴れたものではなかった。
「ねえ梨花、本当に何があったの? あんたがそんな様子になるなんて普通じゃないよ?」
「うん……。本当にごめんね。……ねえ。私がこれから言う事を笑わないで聞いてくれる?」
「もちろんだよ。どうしたの?」
「あのね……」
この間の踏切の話には続きがあった。
これも都市伝説ではありがちな話だ。要するに、上野の踏切事故に話を聞いた人の所には、その被害者の女の子が出てくる、というものだった。
そして、その女の子に出会ったしまった人は、殺されるという。
「そ、そんなの迷信に決まってるじゃん! そんな事で梨花は落ち込んでたの!?」
「私だって信じてなかったよ!! でも、も……。直樹先輩が……」
「直樹先輩が、どうしたの……?」
「昨日、直樹先輩が死んでるのが見つかったって。直樹先輩、左腕がなかったって……」
「……そんなっ、うそっ。だって、えっ? えっ!?」
「嘘じゃない、嘘なんかじゃないよ。それと、今日、隆二先輩に連絡がつかなくなったの。昨日の夜まで連絡とり合ってたのに」
「そ、それはたまたま寝坊してるとか、具合が悪いとかじゃないの?」
「それなら、いいんだけど……。だけど隆二先輩は携帯依存症だから、返事が来なくてもメールはすぐ既読になるの。既読にすらならないんだよ? 何通も送ってるのに」
「それはっ……。私じゃ、わかんないけどさ……。でも、直樹先輩の事だって、もしかしたら事件に巻き込まれたとかも考えられるじゃん? あの人、顔が広くて有名だったから悪い人とかに連れられてとかさ」
「直樹先輩、どこで死んでたと思う?」
「いや、それは分かんないけど──」
「自宅の屋根裏だって。直樹先輩の両親もどこに行ったか分からなくて、警察に捜索願いを出して、それで自宅の部屋を調べてたら血が垂れてきて……。悪い人に連れられて自宅の屋根裏に行く!? 両親のいる家で、気配も足音もさせずに、人の腕をもぎ取る事が出来る!? もう、そんなの祟りしかないじゃん……」
梨花は顔を覆って泣き始めてしまった。自分の、約束された死を嘆くかの様に。
私はその姿を見てなんて声を掛けたらいいか分からなくなってしまった。
「り、梨花。きっと何かの間違いだよ。大丈夫だよ、きっと平気」
「…………。ねえひーちゃん。凄い落ち着いてるね。なんでひーちゃんは大丈夫なの? ひーちゃんの所にも、来るのに……」
──梨花の言葉にゾッとした。気付いてない訳じゃない。だけど多分私は気付かないフリをしてたんだ。
そう、この呪いが本当だったら、私の所にもその女の子が現れるんだ。
「ねえひーちゃん。本当に大丈夫なの? 私達は死なないで済むの? 直樹先輩は、隆二先輩は呪いで死んだんじゃないんだよね? ねぇ、ねえ! 答えてよ!」
私は梨花に何も答える事が出来なかった。ただ黙って、俯く事しか出来なかった。
◆◆◆◆◆
その日から、梨花は私の家に泊まりにきた。一人でいる事が耐えられず、かと言ってこの話を両親にもできない。嘘ならば嘘で怒られるし、本当ならば両親にも被害が及ぶ。
なので、比較的環境の緩いうちで過ごす事になった。両親には試験勉強をすると誤魔化しておいた。
「ねえ、梨花。本当に来るのかな、ソイツ」
「わからないけど、先輩が二人とも連絡がつかなくなってるから。一人は死んじゃったし……。ひとみ、本当にどうしよう。私、死にたくない……」
「私だって死にたくないよ。これ、呪いを解く方法とかないの? 大体そういう都市伝説には呪いを解く方法もセットであるんじゃないの!?」
「隆二先輩たちもそれを言ってたと思うんだけど、なんか曖昧だったんだよね。手を握るなとか、逃げるなとか。逃げるなって言われても、そんなん出てきたら逃げるよね、普通」
笑いたいけど笑える状況にない今、何かを話してないと不安で押し潰されそうだった。
気付けば空が白み、一睡もしないまま翌朝を迎えてしまった。
「……今日は何もなかったね。明日も何もないと良いね」
お互い力なく頷き合うと、眠い目を擦りながら制服に着替えて学校に向かった。
そして、学校で待っていたのは更なる悲劇だった。
「三年の比嘉隆二君が、昨日亡くなったそうだ。同じく三年の山谷直樹君も亡くなった。二人とも未だ死因がはっきりしない為これ以上詳しくは分からないが、君達も危険な目に合わない様に十分注意して生活をする様に」
中年眼鏡の担任は朝のホームルームで突然先輩たちの死を告げた。
「………どうしよう、ひとみ。やっぱり本当だったんだ。ふ、二人とも死んじゃった……!」
1限目の始まる前に梨花が私の教室に来るなりそう言った。もう、信じない訳にはいかない。梨花に話をした隆二先輩も直樹先輩も死んでしまった。
いつか、遠くないうちに私達の所にもソイツは来るだろう。
それまでになんとしてもこの呪いを解く方法を探さなきゃ……!
もう私は居ても立ってもいられず、梨花の手を引っ張ると学校を飛び出して行った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。ちょっとひとみ、いきなりどうしたのよ!?」
「だ、だって、このままじゃ、私達死んじゃうじゃん! だったら、呪いを、解く方法、探さなきゃ!」
学校を飛び出して15分程走り続けた。梨花は文句を言いながらも一生懸命走ってついてきてくれた。私達が向かった先は、学校の近くにある図書館だ。
ここでその昔の新聞や呪いを解く方法を調べるのだ。
「そんなのここにあるの?」
「わからない! でも、学校よりは良いと思う! もう私達には時間がないの。いつ出てくるか分からないの。一分でも無駄にできない。いこう、梨花!」
ここに答えがあるかは分からない。でもきっと何か手がかりはあるはず。真剣な目で見つめ合い、目の前の図書館に希望を求めて飛び込んだ。
図書館では、私が昔の新聞を、梨花がインターネットで都市伝説を調べる事にした。
凡そ30年前としか聞いていなかった為、新聞もいつからいつまで調べればいいのか分からない。なので新聞を調べる前に上野駅に踏み切りがあったという時代をスマホで確認する事にした。
「えーっと、あ、これだ。本当にあったんだ、踏切……。上野駅から鶯谷に向かう方面か。これが高架化されたのは──」
「ひとみ! これ見て!」
静かな図書館に梨花の声が一際響く。大きな声を出して近寄ってきた梨花は私の手を取って自分が使っていたパソコンまで連れて行く。
「これ……。隆二先輩達が言ってた都市伝説にそっくり。これを見る限り、呪いを解く方法があるみたい!」
梨花の指差す画面を見る。真っ黒な画面に赤い文字で書かれたホームページはおどろおどろしい雰囲気を醸し出しているが、今はそんな事はどうでも良かった。早く呪いを解く方法を……!
それはやはり、何十年も前の鉄道事故の都市伝説だった。
不慮の事故で轢かれた女性が、失われた自分の身体を探して彷徨うと言うものだ。
この話を聞いた者にその女性は訪れ、失われた身体の一部を奪っていくというものだ。
もしその女性が現れたら、決して逃げてはいけない。少しでも逃げる素振りを見せれば有無を言わさずに身体は奪われるだろう。
その女性が現れたら逃げずに──
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
突然の梨花の悲鳴に体が固まる。周り皆んながこちらを見てくる。
「どうしたの!?」
慌てて梨花を振り向くと、目を見開いて一点を指差す梨花の姿が。
指差す先には、ボロボロに破れた制服を着て、皮膚もいたるところから血が滲んでいて、落ち窪んで光のない眼でこちらを睨みつけた、左腕のない少女が立っていた。
「あ……、あっ……、あぁっ……」
余りに驚くと、人間は声が出なくなるらしい。
少女の霊を見て、私は声を失い、ただただ震える事しか出来なかった。
私と梨花が固まっている間も、少女の霊はどんどんと間を詰めてくる。
図書館の入口から、ゆっくりと、でも確実にこちらを目指して、足を引き摺りながら進んでくる。
「ひ、ひとみ! どうしよう!?」
「どうしようって、逃げるしか……! あっ、でも逃げちゃダメって……」
他は!? 他の人達は!? 少なからず図書館に人はいるから、そっちに行ってくれないの!?
最低な考えだけど、自分が死ぬよりよっぽどいい!
そう思って周りを見るけど、みんな私達しか見てなかった。
なんで!? あんなに血塗れの人がいるのに!?
頭の中がぐちゃぐちゃになる。なんでって言葉しか出てこない。それでもアイツは近付いてくる。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。
次の瞬間、身体が勝手に動いていた。
足を震わせる梨花の腕を掴み、図書館の裏口に向かって走る。
多分、他の人には見えてないんだ。アイツは私達だけが狙いなんだ。だからここで叫んでも何にもならない。逃げちゃダメって書いてあったけど、逃げないと間違いなくここで死んでしまう。
少しでも時間を稼いで、さっきのサイトでみた呪いを解く方法を知らないと……!!
頭は混乱してたけど、身体は素直に動いてたみたいだ。気付けば自宅の目の前に立っていた。
家の中に入れば逃げられるなんて思ってない。だけど、やっぱり逃げるべき場所は自分の家だと思ってしまう。
偽りの安息を求めて私は梨花を連れて家の扉を押し開ける。
「ねえ、ねえ。ひーちゃんどうしよう!? きちゃったよ! アイツ、来ちゃったよ!?」
「落ち着いて梨花! さっきの、さっきのホームページ! スマホであのホームページ探して!」
私に言われて慌ててスマホを取り出し、検索サイトで先程のホームページを探す。
「……あれっ!? なんで!? さっきと同じキーワードで検索してるのに……!!」
涙声で叫ぶ梨花。その声には悲嘆しか感じない。嫌な予感しかしないが梨花に問い掛ければ、そのホームページが見つからないとのことだ。
「さっきまで見れたのに、もうそのホームページは存在しませんって……。なんでよ……!」
スマホを必死に連打する梨花。私も急いで自分のスマホでそれらしき検索をしてみるが、図書館でみたホームページは遂に見つからなかった。
だけど……。
「この呪いは、本物だったんだね。隆二先輩も、直樹先輩も、さっきの女にやられちゃったんだ。それに、私達も……」
「やめなよ、梨花! 平気だから! きっとなんとかなるから!」
梨花に、というよりはきっと自分に向けて言ったのだろう。自分でも信じてない事は、きっと人に信じさせる事は出来ない。
大丈夫、なんとかなる! それだけを心に念じ続けてホームページを探し続けていた。
「ねえ、アイツはもう来ないのかな?」
気付けば夕日が傾き始め、夜に片足を突っ込んだ時間帯となる。
夢中で調べ物をしていた私はそんな事すら気付かなかった。
「来ないといいけど、そんな訳ないと思う。もう私達は完全に狙われてるだろうから」
「そうだよねぇ……」
ごめんね、梨花。今は適当な言葉で元気付けてあげられないよ。それよりも早く探さないと……!
図書館でのあのサイトは、一体何だったんだろうか。あれ以降、探せども似た様な話は見つけられなかった。それは、この呪いの解除方法が見つからないという事も意味している。
私の頭の中は半分パニック半分冷静だった。
解除方法が見つからない事に焦ってはいたが、先程のサイトが見つからない、なくなってしまっていた。これが意味するところは……。
「ねえひとみ、とりあえずお風呂に入らない? まだ明るいし、入るなら今しかないよ。暗くなったら私多分入れないし」
「えっ……。ああ、そうだね。いっぱい汗かいたもんね。明るいうちに二人で入っちゃおうか」
梨花に言われるまで汗だくでベタベタな身体に気付かなかった。入っている場合ではないかも知れないけど、今入らないと今日は入れないのは確かだろう。
このタイミングで二人でさっさとお風呂に入る事にした。
常に緊張がとけない状況だが、やっぱりお風呂は良い。多少でもリラックス出来るし、頭も働いてくる気がする。
普段は湯船に入らないが、梨花と二人なので湯船にお湯を張り、交代で浸かる事にした。
「梨花、何かいい方法思いついた?」
「うーん、わかんないや。図書館のあのホームページ、あれくらいしかヒントなかったもんね。ちゃんと最後まで読めれば良かったんだけどなぁ」
頭を洗いながら梨花が答える。
そう、後ちょっとで最後まで読めたのに。あのタイミングで出てくるなんて……。
「でも、少しは読めたんだよね? なんて書いてあっ── ? ……ちょっと、シャワー止めてよ? なんでまた出したの?」
「えっ? 私シャワーなんて出して──」
時が止まった。
目の前には図書館で出てきたアイツが立っていた。
梨花がシャワーだと思っていたのは、ソイツから流れ出る血潮だった。
存在しない左腕の付け根から、絶え間なく流れる滝の様に、血の濁流が梨花に降り注いでいた。
「ちょっとひとみ! 止めてって……、えっ?」
梨花もこの事態に気付き、言葉が止まる。
真っ赤に染まる梨花の顔がだんだんと青白くなっていき、奥歯をガチガチと鳴らし始める。
その震えは徐々に全身に広がっていき、梨花は頭に手を当てた体勢のままブルブルと、声も出せずに震えていた。
「えっ、いや、嘘っ……。嘘だよ! いやーーーーっ!!」
恐怖で絶叫する梨花。私はもう怖すぎて声も上げられなかったが、梨花の叫びで正気に戻る。
慌てて梨花の腕を掴んでお風呂から逃げようとするが、今度はソイツは逃してはくれなかった。
一瞬で風呂場の入口に立ちはだかり、なかったはずの左腕をゆっくりとこちらに差し出してきた。
もう、逃げ場はない。もう、コイツをどうにかするしかない。でも、どうやって……。
「ね、ねぇアンタ! アンタ左腕探してるんでしょ!? もう、腕付いてるじゃん! もう腕要らないでしょ!? もういいでしょ!?」
梨花が必死に話しかけるが、ソイツはそんな言葉は聞こえていないかの様にゆっくりと前に進み、更に左腕を突き出してくる。
「ねぇ! もうやめてよ! もう昔の事でしょ!? さっさと成仏しなよ! どうしても腕が欲しいんだったら、私じゃなくてひとみのにしてよ! 腕だけじゃなくて全部持っていっていいからさぁ!!」
「……っ! ちょっと梨花! 何言ってんのよ! 良い訳ないでしょ!? サイテーっ!」
喧嘩なんてしている場合じゃないのは分かってる。でも、もうどうしようも出来ない恐怖との極限状態でお互いまともに思考が働かない。
私も梨花が口汚く罵っている間も、ソイツはゆっくりと着実にこちらに近付いてきていた。
……ああ、もうダメだ。私は、私達はここで死ぬ。一方的に聞かされた都市伝説で、まさかこんな事になるとは思わなかった。
私の頭に最後の瞬間が
痛くないかな。死ぬってどんな感じなのかな。梨花はサイテーだけど、でもやっぱり死んで欲しくはないな。……死にたくないな。……怖いな。
覚悟を決めた訳ではないが、これ以上の生が望めないことを悟ると、不思議と冷静になってくる。
きっとこの子も死にたくなんてなかったんだろうな。怖かっただろうな。悲しかっただろうな。
自分の死が間近に迫るなか、そんな事を考えてソイツを見ていた。
…………よく見ると、ソイツは泣いていた。
もう無いはずの瞳から、うっすらと涙を流し、さっきまであったはずの左腕はまた無くなっていた。
霊が泣く?
意味不明な事態は続いているが、私達を殺しに来た霊が泣くという最も意味の分からない事が今起きている。
──だけど、なんとなくだけど私にはこの子の気持ちが分かった気がした。
「あなた……、怖かったのね? 一人で突然死んでしまって、家族の元にも帰れず、悲しかったのね?」
私の言葉に反応した様子はない。だけど、その場で止まった事が何よりの証拠だ。
死んでしまったけど、この子は私達と同じ女子高生だったのだ。
友達がいれば家族もいて、恋人だっていたかも知れない。
その全てが突然奪われたのだ。もしかしたら本人だって何故こんな事をしているか分かっていないかも知れない。
「もう、大丈夫。あなたの気持ちはわかったわ。あのホームページは、あなたが私達に見せたかったのね。私から逃げないでって。私を置いて行かないでって」
私の言葉に、今度は明らかに反応を示した。
ボロボロだった服は綻びが直り、血塗れの皮膚も少しずつその色を人間の様に変えていった。
「忘れて欲しくなかったんだね。だから腕を探してたんだね。大丈夫、私がいるよ。あなたの事を忘れないよ。だから、……おいで」
そこで私の記憶は途絶えた。
私が覚えてる最後の記憶は、泣きながら私に向かって来た、可愛らしい一人の女の子の顔だった。
◆◆◆◆◆
「ねえひとみ。アレからもう何もないの?」
「えっ? うん、もう平気なんじゃないかな? 少なくとも私は何も変わらない」
あの事件から既に一月が経った。
一週間眠り続けた私を家族は心配したが、目覚めてみれば体の不調はなく、むしろ元気が溢れてくる様だった。
「まぁ何もないならいいんだけどね。あの時は、その、ひどい事言って……。本当ごめんっ!!」
「もう良いよ。意外と梨花も気にしてるんだね。私はもう何も思ってないから、もうその話はおしまいね!」
「へへっ、ありがとうひとみ! あー、でも今回は本当怖かったなぁ。私達だけこんな怖い思いするのは納得いかないわー! 誰かに都市伝説話してこようかなー」
「こりないねえ、梨花は。まぁ好きにすれば?」
そういうと梨花はすぐに隣のクラスに行って今回の出来事を怪談の様に話はじめた。
はぁ、これで懲りてくれれば良かったんだけどな。
一体何人に話をするんだろう?
これから、また私が忙しくなるじゃない。
─────────
あとがき
長い長い短編をお読み頂きありがとうございました。
これは実話を基にしたフィクションであり、一部の地名などを除き架空のお話です。
よくある話ですよね、自分の所に呪いが来るって。
この物語は実話を基にしたフィクションです。
実話を基にした、フィクションです。
もし現れたら、真っ直ぐな気持ちで受け止めてあげてください。
【閲覧注意】本当にあった都市伝説〜常磐線編〜 しゃみせん @shamisen90
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