手紙を綴る作業はまるで『鶴の恩返し』のようで

文字という糸を操り模様をほどこしていきました


わずかにやせたわたしよりも

あなたはやつれていないだろうか

押しつけがましいのだろうか

あなたはうるさく思うのだろうか


ここにはいない姿を思ってを慎重に滑らせました

織り目が美しくそろうようよこ糸を重ねていきました


ひそめるような呼吸をしながらまた一行を積み重ね

トントンとおさで整えます──平静を装うために


自分の羽根を織り込む強欲を

あなたに気取られたくなくて

しかし判ってほしいと願っている

恩返しではなかったのか


自己満足で書いているのか自分でも判らないのです

胸の咎を見ぬようにを打つ作業を続けました


文字を綴る作業はまるで魂を縒っていくようで

心の色に染まった糸をうまく織るのに苦労しました


この織物の美醜はあなたに

あなたの判断にお任せします

文字を操ることだけが

わたしにできるすべてでした




201002

第90回 詩コン『文』

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