菫青きんせい石に向けて黄金がうねる

黎明か夕闇かの薄暗い空の下

炎のように揺らめく穂先を

鴉たちはどう見るのだろう


カンバスに縫い留められた景色は

1メートルほどの世界で今も

音をなくしたままうごめいている

千切れた雲を引き連れて


ゆったり息を吸い込みはきだす

乾いた麦草の香りをまとう

何度も踏まれて育った芽は

強く根を張りよく育つのだという


静かに波頭を立てる心は

ぼくの筆致では表現できない

けれども実る麦のように

いつでも上を向いていたい


広大な畑のなかのただ一本でも

一粒でも

暗い道の続く世界でも

鴉に啄ばまれたとしても

後悔しないよう生きたい


麦のように健やかにいられたら

力強く清しくいられたら

太陽の許に抜け出せるような

愛されるような気がするんだ




200812

第83回 詩コン『麦』

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