全能少年外伝「エイプリル・ブックワールド」
読天文之
第1話クロノスのトラップブック
春休み真っただ中の三月三十一日、クロノスの末裔・高須黒之は宿敵にして全能少年・千草全治を、どうすれば倒せるかについて考えていた。
「あいつはとにかく悪運が強いからなあ・・・、完全に追い込んだ状態で倒したいんだよねえ・・・。」
しかし黒之は考えても考えても、いいアイデアは浮かばなかった。そんな時に、黒之の母が入ってきた。手には分厚い紙袋を持っている。
「黒之、お父さんからプレゼントよ。」
「何これ?」
「今人気作家・認天道幸太郎の本よ。」
「ありがとう。」
そういうと母親は笑顔で立ち去ったが、当の本人はため息をついた。実は頭脳系の黒之だが、全治と違い読書はあまり好きじゃない。黒之は紙袋を破いて、本の表紙を見た。
「おっさん・トリップロード・ラブ・・・、これニュースで流れてた奴じゃないか。こういうの、趣味じゃないのになあ・・・・。」
認天道幸太郎は今話題の小説家で、恋愛をテーマとしたストーリーをこれまで六作品発表している。この『おっさん・トリップロード・ラブ』は、さえないフリータのチンカエという中年が主人公のファンタジー小説で、ある日ゴーストタウン化が進んだ自分の生まれた町を捨てて、自分探しの旅に出る。その中で多くの美女と出会い、関係を深めていく。しかしその美女全員がチンカエの生まれた町をゴーストタウンにした魔法使い・ガエターノによって生み出されたもので、そのガエターノは恋への欲望を力に変えるためにチンカエに美女を送り込む。やがてガエターノの事を知ったチンカエは、ガエターノと戦い故郷を元に戻すことを決意する。しかしガエターノを倒せば、今まで出会った美女全員も消えてしまう事実を知るチンカエは、ガエターノを倒すことに躊躇してしまう。そんな時、美女全員がチンカエに訴えかけることとは・・・、というストーリーである。
「とりあえず、読んどくか・・・。」
その後古本屋にでも売ろうかなと思った黒之は、本を開いた。ページを進めていくと、ふとチンカエの挿絵が目に入った。オールバックのヘアーにふざけた感じの目にそばかすだらけの顔、美女どころか女性全てが避ける顔をしている。
「チンカエの顔、むかつくなあ・・・。」
むかつく顔といえばと、黒之は全治を思い浮かべていた。そしてある名案が、黒之の頭に浮かんだ。
「そうだ・・・、この本に全治を閉じ込めてやろう!!」
そして黒之は、自分に力をくれたクロノスに質問した。
「クロノス様、この本に全治を閉じ込めることって出来る?」
「ああ、因果転送を使えば出来る。」
「因果転送・・・、凄い技だ。」
「ただし、その技を使えばその本を開いた者全てを、その本の世界に巻き込むことになる。」
「そんなの気にしないさ、持っているのが悪いんだから。」
黒之はそう言うとクロノスから因果転送の術を教えてもらい、その日は眠りに着いた。
そして四月一日、千草全治は散歩をしていた。すると親友の北野剛四郎に出会った。
「やあ、北野君。」
「よお、全治。それより大変なことが起こったんだ!!」
「どうしたの?」
「実は俺、宝くじが当たったんだ!!父ちゃんから貰ったけどよお、一等を当てたんだぜ!!」
「どうして北野君は、父さんから宝くじを貰ったの?」
いつも通り全治は質問をした、北野はガックリと肩を落とした。
「やっぱり全治はこれか・・・・・。実は今の話は嘘、俺の父ちゃんが宝くじをやる訳ねえだろ。」
「嘘だったんだ・・・、どうして嘘をついたの?」
「今日は四月一日だろ、エイプリルフールさ。」
「何で四月一日は、嘘をついてもいいの?」
「知らねえよ!!」
北野はツッコんだ、こんな会話は全治と北野の間ではいつも通りである。
「そうか・・・、それで話は変わるけど、北野君は好きな本とかある?」
「本か・・・・、俺はマンガしか読まないからなあ・・。」
「僕は今年のベストセラーと文学をよく読んでいるよ。」
「でも文学って、古くて堅苦しくて、あまり好きになれないなあ。」
「そう?僕は人間性があって面白いよ。」
「全治って、やっぱり大人だな。」
この後、全治は北野と別れて、町中をプラプラ歩いていた。すると珍しく、黒之と出会った。
「全治君、久しぶりだね。」
「黒之君・・・。」
全治は黒之を見て、目を細めた。自分の命を狙うクロノスの末裔であり、少年でありながらクロノスの力で、命を弄ぶ愚行を重ねている。
「そうだ、君にあげる物があった。」
「ん?何かくれるの?」
そして黒之は、「おっさん・トリップロード・ラブ」を全治に渡した。
「これって、認天道幸太郎の新作だよね。」
「ああ、昨日プレゼントで貰ったけど、趣味じゃないから君にあげるよ。」
そう言って黒之は去って行った。
「まさかこんなところで手に入れるなんて・・・、でもどうして黒之はこの本を僕にくれたんだろう?」
首を傾げつつも全治は帰宅した。そして自分の部屋に入ると、眷属が出迎えてくれた。
「全治様、おかえりなさい。」
「ああホワイト、ただいま。」
「全治様、その本はどうしたんですか?」
「ああ、黒之から貰った。」
「黒之からですって・・・、そんなのは今すぐ捨てましょう!!」
ルビーが、全治から本を取り上げようとした。
「どうして?」
「だって黒之から貰ったなんて、陰険なアイツの事ですから絶対裏があります。」
ルビーは眷属になる前、黒之に命を看破され失ってしまった。そのため、黒之の事を誰よりも敵対視している。
「うーん、確かにそうかもしれない・・・、けどこの本は読みたいなあ。」
「ん?おっさん・トリップロード・ラブ・・・?何ですかこの意味の分からないタイトルは?」
アルタイルが不思議なものを見る目をした。
「ああ、今人気の認天道幸太郎の作品だよ。」
「ふーん、人気なものって私には理解できません。」
「さて、読んでみるか。
そして本を開いて目次をめくった時、突然本の中から竜巻が出てきた。
「うわあ、何だこれ!?」
竜巻は全治を本の世界へと引きずり込んでいく。
「全治様、危ない!!」
ホワイトが全治の肩を掴んで引っ張った、ルビーとアルタイルがそのホワイトを引っ張る。
「まさか・・・、黒之君はこれのために・・・うわあ!!」
「ああーーーーっ!!」
しかし全治は本の中に吸い込まれてしまい、眷属達もつられて吸い込まれてしまった。こうして、全治の本の中での旅が始まるのである。
「黒之、全治が因果転送にかかったようだ。」
「ふっ、やっぱり読書家の全治は、誘惑を断ち切れなかったようだ。」
「ところでお前にはまだ言っていなかったことがある、因果転送は送られた世界の物語を終わらせる事で解けてしまう。そうなると、全治は元の世界に戻ってしまうんだ。」
「ふーん、でも全治はその世界では、あの失敗した料理みたいな主人公になるんだろう?だったらあまり問題では無いね。」
黒之は、全治を罠に嵌めることが出来た満足感で、満たされている。
「それに万が一、全治が抜け出そうとするなら、強制解除すればいい。」
「確かにそれなら、全治が二度と元の世界に戻ることは無い。しかし油断はするなよ。」
黒之にはクロノスの忠告が聞こえていなかった。
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