紗代とベルト

 彼女はいつも車も駐車場代も出してくれる。何度断っても、単純に金を使うのが好きなのである。


 私は衝動買いタイプで、我慢が出来ない。いいなと思ったら、即購入。数は少ないが1度が大きい。


 同じ浪費家でも、種類が違うのである。


 しかし、ガソリン代もあるだろうし…彼女は受け取らないし、せめて迎えに来てもらわず、自分から紗代の家に行くようにした。


 広いガレージに停めさせて頂き、紗代を呼びに玄関まで行く。


 一応インターホンを鳴らしたけど、玄関は開いていて、中が丸見えである。


「………?」


 何やら、年配の女性が声を張り上げ喚いている。


「あんた!!また勝手にお父さんの金庫からお金くすねたね!!!」


 えぇぇええええ!!!!


 ゴクリ


 多分、お母さんかな?


 金庫……くすねた………勝手に……。


 私自身も、パニックである。

 ずっと好意で奢って貰ってたあの駐車場代とか高速代金とかガソリン代とか。


 お父さんの、しかも盗んだ金だったんかい!

 しかも、その口振りだと、常習っぽかった。

 どうしよう…今日は帰る?


 私が3度目のインターホンを鳴らしたら、そのお母さんが出てきた。


「まぁ、紗代の友達!!?女の子!?嘘でしょ!?」

 そう言うと「ちょっと待ってて」と言って家の中に消えていった。


 出掛け着の紗代が現れる。


「じゃあ、行こっか!」

「え、大丈夫なの?」

「うん。お母さんは怒ってるけど、お父さんはいいよって言われてるから大丈夫なの」


 マジで?こんなこと言うのもなんだけど、多分、お母さんがマトモなんだと思う……多分。

 なんとも気まずい出発となったが、よし、今日も買うぞー!!!


 母親に叱られ、紗代は落ち込んでるかと思ったが、全くいつも通りであった。


 いや、私にあの場を見られた事の方が気になる様子だった。


 ショッピングモールに到着し、なんと今日は最初から別々に行動しようと言う。


 やばいなぁ、プライド高そうな人だし、玄関から車に戻って電話でもして聞かなかった事にした方が良かったな、と後悔した。


 いやぁ、しかしいくら何でも親の金庫勝手にって。

 それも、着ない服を買う為にねぇ。


 私はポイポイと気に入った物を片っ端から買い込み、精算を済ませ、別階で買い物しているだろう紗代のところに迎えに行った。


 広々とした空間にお洒落なテナントが列んでいる。

 その一つ、通路側の商品を手に取り、紗代と店員が何か揉めている!


 今度は何っ!?


 紗代に怒鳴られた店員が慌てて、倉庫に走っていく。

 なんだなんだ喧嘩かぁ???

 やめときゃいいものを、私もヘラヘラと顔を出す。

 紗代は私を見つけると、


「あっち行ってて!構わないで!」


 とヒステリックに喚き出した。


 随分荒れているな、まぁ朝の一件もあったし。

 それにしても、何があったんだろう?


 しばらくすると、店員が戻って来る。

 よく見ると、手に持っているのは金ピカのベルトである。


 うわぁ嫌な予感。


「申し訳ございません、お客様。こちらの商品はフリーサイズとなっております故、サイズは一種類と言うことでして……」


 ひぃぃぃいいいい!


「あんた、これしかサイズがないのに、よくも簡単に似合うとかよく言えるわね!」


 ブっちギレてる!!!!!


 うわぁ、来るんじゃなかった、影で様子を伺えばよかった。


 しかし、店員も凄い商魂で攻めていく!

 今度は違う店員が出てきた。


 謝れ!この度はーって言え!!


「お客様、こちらのベルトは二種類使い方がございまして、これをこうして頂くと3巻きから、2巻きのベルトになるんですよぉ。

 サイズも調整可能ですから、どうです?えぇ、こちらの方がスッキリ見えますしぃ…」


 ベテラン店員がテキパキと紗代にベルトを巻いてゆく。

 向かい側のギャル男店員も、隣のナチュラル女子店員も不安そうに、このテナントの様子を伺っている。


 お願いやめて!


「ほぉら、こんなにお似合i…」


 ブッチぃ!!!!!!!!


「……………!」

『………………!!』


 バックルがゴッと音をたてて、床に落ちる。ベルトの穴が裂けてる。


 無言の店員。

 目撃したギャル男店員達。



 と、その時!


「だーーーーーーーっはははははははは!!!!!!」


 おい、笑ってる奴居んぞ!





 私です。


「うっひゃひゃひゃ!!」


 病気だとか、サイコだとか、躁転とか、言い訳しません。

 普通にこらえきれなかった。


「ヒィーっヒヒヒ!!!」


 もう駄目。最低だ。止まらない!


 そして食らう。

 人生初の、女の子のマジビンタ。


「しねぇっ!」


 帰りは別だった。


 もう紗代と会うことはなかった。


 失礼な行為をしたと思う。



 でも、また同じような事が起きたら…自信ない。


 とりあえず、接客するような仕事につくのはやめておこう…。




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