ワイワイオフ会

 普通の社会人だとちょうどお盆休み最終日あたりだろうか。


 ワイワイオフが開催された。


 駅から少し外れた場所。

 時刻は21時から。


 待ち合わせもない。


 大手チェーン店のカラオケ屋さんではなく、雑居ビルの中の一角でやっているような古い店である。


 来たはいいけど、どのルームでやってるのか……?

 フロントのカウンターで「えっとぉ……」と言っただけで、年配の女性は、すぐ分かったようだ。


 参加料金一万円。

 高い気がするけど……まぁ、私の胃袋は万全だ。


「ここの突き当たり!自由にどうぞ」


 自由にって……大丈夫なのそのシステム。

 どうも主催者はよくここを使うようだ。


 部屋は広く、ざっと見て20人はいる。

 座ってない人も居て立ち飲みの人もいた。


 しかも21時からのはずなんだけど、なんかもう出来上がってる人もいる!


 と、とにかく主催者に挨拶しないと……!


 私は出入口付近に座っている男性に声をかけた。


「こんばんは、初めてなんですけど…」


 男はヒロさんと言った。


「あぁ、好きに呑んで帰っていいよ」


 えぇ………?

 何それ?

 主催者はどこ?

 あとから変なモン押し付けられたりしない?


 と言うか、声をかけてから気づいたけど、この人凄い大男だ!

 殴られたら一発だ!怖ぇぇえ!どうしよう…。


 ヒロさんは取り敢えず酔っ払ってない。


「俺はあいつのお守で来たから」


 そう言って顎を向ける。

 今歌っている20歳くらいの男の子だ。

 20歳でも、ナルシくんあたりとは違って随分幼い顔付きである。


「俺とあいつ……シノって言うんだけど。

 今日は参加3回目。ここはそういう所だから、心配ないよ」


 そのうち、シノがヒロの側へ戻ってきた。

 あ、なんかこの構図よく見る。

 子犬と飼い主だ。


 三十歳のヒロと二十歳のシノ。

 インパクトも雰囲気も全く違う。

 同じ派遣会社に勤める同僚同士だそうだ。


「主催者は……?」


「それも心配ないよ。あの人、主催しといて全く顔出さないから」


 何それ!?


「他の店でもやってるから」


「え、何を?」


「このオフ。あの人1通り回って来るんじゃないかな?神木さんはここ何時からって言われた?」


「え?21時ですけど…」


「俺達は19時から。そろそろ帰るんだ」



 自由にって、そういう事なの!?


 しゅ……主催者スゲェ…。


 カオス。


 参加者全員が、なんかこう、まとまりがない。

 スーツのおっさん組もいるし、ドレスアップした女性もいるし、果ては完全に合コン状態の集団もいる!


 こころなしか…酸素も薄い気がする。


 ダメだ……トーク力もない私はすぐにのまれた。

 情けないことに、取り敢えず私はヒロとシノと共にビールを啜っていた。


 盛り上がりすぎ。

 歌なんて聴こえんぞ。

 な、何をすれば……。


 完全にビビりである。


 落ち着いて、飲み食いしてるフリをするけど、明らかに私の場違い感。


 なんだろう…居酒屋とスナックとホストクラブをこの一室にまとめたみたいな。


 ドレスアップの女性陣。

 凄い美女集団。

 ボン!バン!ボヨン!


 アレ?合コン組の女性陣も。

 キャッキャウフフ!


 うわぁ、私が1番ブサイクだわぁ。

 凹む………。


「歌ってきました!」


 子犬のシノが、大男ヒロの元へ帰って来る。

『褒めて!』って感じだ。

 か……可愛い。


 決して、美男じゃないんだけど、愛くるしい!

 唯一の癒し。

 うぅ、孤独な私を癒して!


 1時間経ち、22時組なのか、2人の男が入室した。


 1人は寡黙そうな男で、もう一人は…。


 なっ、何この人、凄いイケメン!


 痛い!目が痛い!こんなイケメン久々に見たよ!


 室内の人々が、ビタっと飲み食いをやめる。


 まさか!


「おぉー、楽しんでる!?」


「はーい」


「いつも通りでーす」


 うわぁぁぁ、やっぱりこのイケメンが主催者だー。

 ちょっと待て!

 コイツ私とそんなに歳違わないんじゃない!?


 イケメンはクルッと振り向くと、サングラスを外して私の前に立つ。


 サングラスの下も……イケメン…だと!?


「今回、初参加の神木さんでーす」


 ヒューーーっ!パチパチパチ!


 駄目、口から胃が出る!目立たせないで!


「歳は俺とタメでーっす」


『ええー』


「えぇぇぇえ!!!!!?」


 1番驚いたのが私だった。


 まじでか…なんなのこの違い。


 クラスのイケメン人気者と孤立した女子生徒みたいな。

 やめてやめて。


 すると場が一変する。


「え!21歳?」


「私達、てっきり学生が来ちゃったのかと……」


 美女軍団がどよめく。


「すみませんすみません」


 駄目だ。

 この美女軍団も嫌味とか悪気のないヤツだ。

 私みたいなヒネクレ者には余計に眩しいよ!

 オッパイも眩しいよ!


 あれやこれやするうちに、真ん中に押し出される。

 もう何が何だか分からない。


 蟹の如くキューキュー言ってる私を、イケメンが引きずりだす。


 もうライフ0です。


「高校どこだった?あの近所にさぁー」


 私が答えるより早く、


「あーごめん!こんな質問野暮だよねぇ!」


 やめて!

 ホントは私がメンヘラでコミュ障なのがバレちゃうからぁぁ。


「いろんな人が居ますね…」


「こういうの好きじゃない?」


「いや、好きですよはい…」


 嫌いとも言えず流される。


 マズイ。このイケメン慣れてるヤツだ。

 気をしっかり持たないと、流される……。変なの買わされないようにしなきゃ…。


 するとイケメンはそんな私を見ると、目配せをした。


 今度は何!?


 なんと、美女軍団の1人が私に付いた。


 困るよ!な、何を話せばいいの!?


 凄い美女。

 胸元の谷間のラメが眩しい!


 気まずくなって煙草を取り出した私に、スッとライターが差し出される。

 うわぁぁぁ、そんなつもりじゃないんです!

 ついペコペコしちゃうよ!


 あ…………。


 この美人女性のライターを持つ腕にも、リストカットの痕がある。


 そうだよね。

 私も全然隠してないし、普通の人は見たらめんどくさい女だと思うよね。


 と言うか、私は今更何をビビってるの?


 そもそも、目の前にいるのは同じ女性。

 イケメンはほんとにイケメンか?

 うん。私の好みじゃない。

 大丈夫!

 ただのイケメンだ。


 私、何してるんだ。


 煙草を揉み消すと、私はバッとパンダのように、両手で目を塞いだ。


「え?どうしたの?」


「私が女でも、そのオッパイはヤベーです!」


「アッハッハ!寄せてんのよ!」


 そんな雰囲気で楽しみ始めたところに、10分程してもう1度イケメン君が戻ってくる。


 彼の名はキングである。


「俺はそろそろまた行かなきゃ!」


 一体、1度にどんだけ開催してるんだろ?


「セイユちゃん、今度は俺の自宅でパーティーするんだ!

 よかったら来てよ!」


 メモ紙を受け取った。


 住所を見ると、こんな田舎じゃあすぐ分かる。本当に自宅だ。


 メモ紙を受け取ったのは、私の他に、ヒロ、シノ含めても数人だった。


 隣の美女もにっこり微笑む。


 なんかなぁ。こういう業界の人なんだろうなぁ。

 実は私は、そういう店や、専門のプロのいる場所へは行ったことがない。


 自称〇〇、などと言う奴は出合い系に転がってたけど、レベルが違う。この人たちを見ると初対面の人と接するのが手馴れてる感が。


 コミュ障の私とは違うわぁ………。


 なんだか、凄そうね。

 っと言うか、なんで自宅?

 うーん、ま。ヤバくなったら、命乞いでもしてみる?

 どうせ鬱の時に自殺未遂したんだから、楽しまないと!私はもう自殺はしない。

 そりゃそうだ鬱は治った(自己診断)んだから!


 私は同意すると、キングの側に居た寡黙な男性に駅まで送って貰った。


 とは言え、内心やっぱりビビっているのであった。


 家に帰り、住所の書かれたメモ紙をジッとみる。


 うーん、祖父の親戚の家が〇丁目だからえっと…。やっぱり、山間部だな。多分、隣の家は何百mも離れてるような場所だ。

 農家だろうなぁ。

 あの人数を自宅に呼ぶくらいだ。私の家のように、住宅地の狭い家じゃないんだろうなぁ。


 車で行く?

 好きな時に帰れるように。


 時間はやっぱり夜だ。


 うさぎくんに言ったら止められるだろうなぁ。

 懸念しているのは性犯罪やネズミ講などである。


 見送ろう。


 出会いなんて他にもある。

 自宅に行くなんて馬鹿だよな。


 すると、そこへキングから電話がきた!


「おはようセイユちゃん、昨日は楽しめた?」


 あ、アフターケアも万全!!?


「大丈夫!」


 この男は相当やり手なんだろうな。

 何が目的?


「いや、オフ会に転々と参加してたんだけど…昨日みたいなのは初めてだったからびっくりした」


 キングは「主催者なのにずっといなくてごめんねぇ」と言う。


 なんだろうなぁ、この男は喋る度に惹き込まれるような雰囲気があった。ただ恋愛とも違うんだよなぁ。カリスマ性?

 ここに『スキル 霊感』が加わると『教祖』と言う称号が付くのだろうか?


「楽しかったけど、なんかめっちゃ私場違いだったよ」


「ふーん、そうかな?

 あ、それで次のオフ会なんだけど、ちょっと人選変えたんだ」


「え?」


「シノが来る予定だったんだけど、ヒロが来れないって言うんだよね。シノは今月20歳になったばかりだし、やっぱり見ててやりたいんだよね。

 だから今回は割と大人しめの集めて、騒ぐ連中は別場所にするから。

 あ、あとこの話ほかの人に言わないで!」


 面倒見いい主催者の顔と、誘う口実、秘密話。

 え、そーゆーのってどこで教わるの?スーパーの接客でも教えて貰えるかな?ってか、私仕事探さないとならないんだった。


 しかし、シノは20歳になったばっかりかぁ。

 っても私達だって、21だぞ…。

 あの子犬ちゃんが、オッパイ美女の毒牙に殺られるところ……ハハ。見てみたい!


 どうしよう…。


「あと、休憩スペースも作るから。

 俺の兄貴が漫画好きでさ。中学時代からの少年誌そのまま残ってるんだ。退屈しのぎにはなると思うよ!」


 中学時代からの少年誌!?


 ヨ マ ネ バ な ら ん !


「シノ君ね、まっかせて!」


 ビシッ!


 今考えると、本当にチョロいな私。

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