***




 ──いつまで、持つだろうか。


「アズ、ロ……」


 まぶしくて、何も見えない。

 ただ、自分たちが力導器機りきどうききの導力をそれぞれの身体を媒体に、空に流せていることだけは、判っていた。


「シェーナさ……」


 意識が、途切れてしまいそうだ。

 力導器機には、まだ余力がある。

 もう少し、持ちこたえなければ。


「ごめ……」


 シェーナの声が小さくなりかけた、その時。


「──クリシュナ!」


 アズロらしからぬアズロの声と腕が、シェーナの身体を支えた。

 片腕を直接機体中央に。

 もう片腕で、シェーナを支え続ける。

 機体の動きは、変わらなかった。


「アズロ……制御が……」


「──うん、大丈夫みたいだ。不思議だよね」


「……そっか」


 ささやいたシェーナは、ゆっくりと目蓋を閉じる。

 誰かに何かを委ねたのは、いつぶりだろう?


 支えは、力強く、あたたかい。

 意識を手放すでもなく、心に、白い白い光を思い浮かべた。

 シエラねえさんの手から放出されるのを何度も何度も眺め憧れた、あの優しい光を。


 リリー……


 ああ、そうだ。

 あれは、元々、リリーではなくて。


 誰もが、持っている光……


 形が一定化していて、気付かなかった。

 私の中にも、あることに──


「アズロ、ありがとう」


 穏やかなシェーナの言葉に、何かが目を覚ました。

 シェーナの両手から、異能でもなく古の力でもなくリリーでもない、けれど、全てを含む流れが、生まれていた。


「僕もだよ……ありがとう、シェーナさん」


 怖れていたラナンキュラスの力は、暴走せずに均一に流れ、片腕を介してリオの力と同調し増幅させ、機体の流れを保たせてくれている。

 もう片腕から伝わる大地の如き雄大さが、空を抱きしめるように、支えてくれているからだ。


「そばにいてくれて、ありがとう──」


 二人の声が、重なる。


「──」


 言葉にならない言葉が、小さな歌を口ずさんだ。


 子守唄に似たそれを、初めて聴いたのは、いつだったか……。


 いつしか、穏やかな低音が二人の声にふわりと重なり。


 鈴の音の繊細な歌声が、小さく重なり。


 遠いあたたかな響きが、そっと重なり。


 記憶を辿るようなたどたどしい歌声が、重なり。


 珍しく凛とした歌声が、重なり。


 朗らかでまっすぐな歌声が、天高く融和する──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る