空色の風・後編
アズロは最初会った時のように微笑むと、慎重に下降を始めた。
昇った時よりもいくらか時間をかけて、周囲に目を配りながら、先ほどまでいた公園の、人気のない場所に降り立つ。
先ほどまでの浮遊感のせいだろうか、上手くバランスをとれずに傾いたシェーナの体を、アズロはそっと支えた。
「立てる? そう、ゆっくりと両足に重心をかけるように……うん、上手い」
アドバイスに従いながら、シェーナが元の安定を取り戻すと、アズロはにっこりと微笑んだ。
「付き合ってくれてありがとうね。楽しかったよ。……でも、ごめん、今日は長くいられないんだ。また日を改めて、ここに来るから」
時間を割いて来たのだろうか、そそくさと帰り支度を始めたアズロに、シェーナは言った。
「私のほうからも言っておくわ、ありがとう。勘違いしないでね、信用したわけじゃない。あなたが攻めてきたら、いつだって迎え撃つ準備はしてあるわ。……でも。あの景色は、本当に綺麗だった。だから、ありがとう」
その言葉に、アズロは少し驚いて。
それから、花が開いたような満面の笑みを浮かべてシェーナに手を振った。
「どういたしまして! 景色が見たければ、いつでも言ってください」
遠く遠く、上空にアズロの姿は消えて、見えなくなる──
次の瞬間、上空を、鳥のような影が横切り、セレス方面へ向かっていった。
シェーナは鳥を──アズロを見送ると、踵を返して町外れの自宅へと足を進めた。
未だ静まらぬ鼓動が、歩くごとに高鳴る。
帰りゆくその背を、流れる茶の髪を、はためく淡い緑のリボンを、フォーレスの穏やかな夕焼けが柔らかな橙に染め上げていた。
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