第159話 僕の推測の域だが

「僕の推測の域だが、彼女がパンドラで間違いない。最近調べて知ったことだけど、ドーヌム・ホムニス、彼女の本当の名前はドーヌム・オムニスじゃないか。最初発音が聞き取れなくてオをホと聞き間違えた。彼女も利き間違えられた方が都合が良かったんでそのままにしていたとしたら……」

「鈴木君、ドーヌム・オムニスならどうなるん?」

「ドーヌムはラテン語で贈り物、オムニスはラテン語ですべてのという意味だ。それはパンドラと同じ意味になる。さっき沢口さんが言ったように天からあらゆる物を与えらえた彼女は最後、パンドラの匣に残った不老不死を得て、今の時代まで生き伸びて来たんだ」

 俺も鈴木部長の考えに同意だ。

「やはり、パンドラは日本で十七夜(かなぎ)と出会っていたと思う。そこでコトリバコの作り方を十七夜に教えた。十七夜はパンドラの意思を継ぎ、八つのハッカイを完成させ、十七夜教を広めたんだ」

「そう、意思を継ぐことこそ同志という意味なんだ。意思を継ぐ者こそ同志、あのかんざしは、フードの男から送られたものだったんだろう。俺たちに対するメッセージとして」

「鈴木、メッセージって?!」

「いよいよ、正体を明かして十七夜教が動き出すということだよ」

「……」

 全員が黙り込んだところで、再び舞台の幕が開き、スポットライトが舞台の上を照らし出した。


 再びアナウンサーが前に出て来た。

「さあ、ここからは洋装での審査です。候補者は新たな装いでの登場ですー」

 美優たちがロリィファッションで両手を振りながら飛び出してきた。愛想を振りまく美優と留萌さんは堂に行ってアイドルみたいだ。あれだけ恥ずかしがっていたのに開き直りれば輝くようなオーラを身に纏っている。

 対局は麗さんとオムニス教授だ。麗さんはゴスロリの服装で小悪魔感を出している。しかし、これからのことを考えているのか……、表情が硬い。オムニス教授は黒のワイシャツにパンツルック、上には白衣を引っ掛けている。どうやら、大学に居る時の普段の服装みたいだ。それでも周りの候補者に見劣りしないのはその容姿の美しさが群を抜いているからか……。


 そして、候補者が一人ひとりパフォーマンスを披露する。美優は高校時代にやっていた新体操をアレンジしたダンスを披露している。ヒラヒラと揺れるスカートに会場は大興奮。手拍子が巻き起こったが、俺はヒヤヒヤが止まらなかった。ここで転んでパンツ丸出しで優勝とか……、どっかで見たことのある展開はこれっぽっちも望んでいない。

 動に対して留萌さんは静だ。

 フルートを取り出し、奏でるのはおなじみの「星に願いを」だ。美しい旋律に、その色気を感じさせる表情。惜しむらくは、ロリィファッションに曲があっていないことだが、そんなハンデさえ美少女の前ではかすれるらしい。会場はしんと静まり帰り、彼女が紡ぎだす音楽に、聞き惚れているようだった。

 そしてブービーに控えているのは、ゴスロリファッションの麗さんだ。

 背中から抜き取った大麻(おおぬさ)、榊(さかき)の棒に紙垂(しで)を付けたいわゆる祓い棒と言われるものを構え、いきなり祝詞(のりと)をあげだしたのだ。いや、それをするなら巫女姿の時にするべきだろう。あまりのギャップに会場は唖然としている。

 しかし、歌うような調べの祝詞は神聖な雰囲気を醸し出し、誰もがまるでお祓いを受けているような神妙な顔つきに変わっていった。

「これで、穢れは払われた」

 安堵したように呟いた麗さんの声に、アナウンサーも思わず「ありがとうございます」と頭を下げていた。

「まるで本職のようですね。竹ぼうきに乗ってる方が似合っているのに」

 感心しているアナウンサーに向かって麗さんはきょとんとして答えている。

「本職は巫女。学生は借りの姿。竹ぼうき? 境内の掃除するときは使う」

「麗~、本職は宅急便やゆうてそこでボケなー」 

 彩さんのツッコミが隣で聞こえたが、麗さんにボケを要求するのは無理だろう。まず、魔法少女を知らない可能性もある。アナウンサーも滑ったフォローをなかったことにしようと話を進めている。

「素晴らしいパフォーマンスでした。お祓いを受けて、身も心も改まったところで、いよいよオオトリのドーヌム ホムニスさんです」

 アナウンサーの紹介に合わせてスポットライトが前に出て来たオムニス教授に当たる。

「私は手術以外に出来ることってないんです。それで昔、私が作成に係わった工芸品を候補者の皆さんにプレゼントしたいと思って持ってきたんです」

「それは、ホムニスさんの手作りなんですか?」

「それは……、総合プロデューサー的な立場でですね」

「へーっ、それでは皆さんに配っていただきましょう」

 ホムニス教授は手に持っていた紙袋を候補者たちに配り始めた。紙袋に書かれているロゴは「京都みやげ」と書かれている。

「すぐに中身を見てみて」

そう言って候補者に渡しているみたいで、みんな、すぐに袋から中身を取り出して、包み紙を広げている。一〇センチほどの立方体の包だ。しかし、紙袋は六つしか持っていないぞ? 

 どうやら、麗さんだけを外しているみたいだ。麗さんを抱えるようにハグすると何かを麗さんに囁いたようだ。

「みんな開けちゃだめ!!」

 麗さんの叫び声が聞こえたが、すでにみんな包み紙を開けた後だった。そのフォルムは寄せ木細工の飾り箱、あれはまさにハッカイじゃないのか?!

 ハッカイを受け取った候補者たち、美優も留萌さんも膝から崩れ落ちるようにその場で倒れだした。

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