第153話 そんなことより、人類最初の女性か~
「そんなことより、人類最初の女性か~。パンドラこそミトコンドリア・イブちゅうことやな。男に囲まれて逆ハーレムやん。永遠の若さと美貌で男を傅(かしず)かせる。女冥利につきるやん」
「藤井さん。まあ、そういうことだろうな。パンドラの匣の最後に残った「不死」を独り占めにしたパンドラは……、しかし、自分の思ったように世界は動かなかった」
「えっ、それはどうしてですか?」
美優がここで鈴木部長の話に口を挟んできた。
あれ、美優は経験があるから分かるはずなのに。俺の気持ちを代弁すべく麗さんが美優に向けて声を発する。
「美優、杉沢村の時」
その通り。杉沢村では、美優に横恋慕しようとしたヤリサーたちが犠牲になった。美しい女は男たちの争いの種になる。まして、傾国の美女ともなれば、国を挙げて争うことになるだろう。
「まあ、男たちの争い真っただ中にいることになるだろうな。その原因が自分が解き放った八つの枢要罪が元なんだから、いやになるだろうな。そういう世界から逃げてきて、やがてこの東の果ての島国に流れ着いた。
ここで、おそらく貴族との争いに敗れた十七夜(かなぎ)という男と出会って、人類抹消ということで意気投合したんだろう。
沢登さんが、オーラが無いと言ったフードの男……。すでに死んでいるんじゃないか? 肉体を構成する何かによって、パンドラに生かされているだけかもな。ハンドラ自身が大地の泥から創られたように……」
なるほど鈴木部長の仮説が本当だとすると、八つ枢要罪を解き放ったパンドラは、匣の中に残った「不死」をわが物にして、人間たちを飼い馴らそうとした。しかし、自分が解き放った八つの枢要罪が仇となり、自らの身が危険に晒されたために世界中を逃げ回った。
そして、いつしか十七夜(かなぎ)のいた時代の日本に流れついた。
パンドラと十七夜(かなぎ)が手を組み、自らの解き放った八つの枢要罪を武器に人類に最大の災いを起こそうとしている。
十七夜(かなぎ)もパンドラと同じように、何らかの方法で不死の力を手にいれて、パンドラに付き従っている。その過程でできたのが終末を望む人々が信仰する十七夜教か……。
これがハッカイのすべてという訳でもないだろうし、仮説が丸々間違っている可能性だってある。今、はっきりしているのはあのフードの男が人間ではないということだけだ。
いや、それだけじゃない。ベネトナッシュは言った「天帝の罰」とそれは火を手に入れた人間に対して与えたパンドラの匣の中身のことなのか?
みんなは押し黙ったように、誰も言葉を発しない。鈴木部長の話の真偽を俺と同じように確かめているのかもしれない。
誰かが「ところで大学に戻ったら、ミスキャンパス推薦候補が決まっているな」と呟いたことで、話の話題はそちらの方が中心になっていた。
あとは、一人二人と眠りに就いていったのだ。
岡島神社に着いた時に、運転手が山岡さんに代わっていたのに初めて気が付いたのは、俺もしっかり眠っていたっていうことなんだろうな……。
ぼんやりとカーラジオから流れるニュースを聞いていると、この辺りでは特に変わった事件はないようだった。まあ、そうそう事件が有っても困るところだけど……。
ところが京都の方では大変だったみたいだ。愛宕神社では参道から頂上の本殿まで、一直線に木々が伐採されて、2メートルほどの道が出来ている。さらに、本殿の裏は、直径10メートル、深さ3メートルほどのクレータ―のような穴が開き、近くにあった石碑は中ほどから砕け、傾いて立っている。
ああっ、これって俺がやったことか。不味いな……。あの羅刹鬼とかいう式神がやったこともあるが、これって犯罪だよな? 俺は顔色が悪くなったようだ。その顔色をみて、鈴木部長が慰めてくれた。
「大丈夫だ。超能力を使った殺人はこの国では告訴できん。刑事訴訟法に在るだろう。証拠立証主義、再現できない犯罪にはこの国の警察はお手上げなんだ」
「そうなんですか?」
「錬君、返って良かったかも、あそこに登山用のリフトでもつけりゃ参拝者も増えて、門前町の店はほくほくなんやない?」
彩さんは直ぐゼニの話になってしまう。まあ、大阪の人には京都の人はお高くとまっているように見えて、あまり仲良くはできないらしい。
その案が採用されれば俺の罪悪感も少しは和らぐんだるけど……。
ところで、八坂神社の方はなの報道も無かった。傷を治したと云っても、あれだけ人が倒れていたのに、報道されないということは誰かが痕跡を消したということだ。十七夜教、思っているよりも大きな組織に違いない。
「俺たち、レンタカーを返しに行ってくるから」
思考の途中で、鈴木部長が声を掛けて来た。
「はい、今日、大学にいくんですよね?」
「当たり前だろ。今日はミスキャンパス候補が揃うはずなんだ。沢井さんの結果を観ないといけないだろ」
「ほんま、楽しみやな~」
そう言って、俺たちは岡島神社で別れた。みんなそれぞれ家に帰り、身支度をしてから大学に行くなのだ。
そこで、美優が俺を呼び止めた。
「錬、家まで送ってくれる?」
「それは構わないよ。一緒に居られるなら大歓迎さ」
タンデムになったのは予想外だが、背中にぴったり引っ付く美優の暖かさを感じて俺は徹夜に近いテンションがさらに上がっている。
「錬、私、怖い……」
「えっ、どうしたの? 俺は何があっても美優は守るよ」
「あのハッカイ……。私、勿来の関で同じような箱を見たの」
「えっ、それはどういうこと?」
「あのね、勿来の関で発見した箱にそっくりなの? その時はあまりに状態が良すぎて後世に出来ただろうって……」
「それは、今どこにあるんだ?」
「大学じゃないかな? 結局、記念に返されたんだけど……、気持ち悪くて大学に寄付しちゃった」
「同じものかどうか分からないけど、明日、いやっもう今日か。とにかく大学に確認を取ろう。大丈夫だよ。俺が付いているから」
「うん。わかった」
話し終えたところで美優の家の前に着いた。
「じゃあ」
「うん。バイバイ」
俺は美優と別れた後、面倒なことにならなければいいがと、あくびを噛み殺し、紫に染まる道をバイクでかっとんで行く。
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