第73話 ……お前、何をしようとしているんだ?……

(……お前、何をしようとしているんだ?……)

 何か言ってるがそれを無視して虎杖丸を天に掲げる。

「我が名は九星剣明王! 我に汝の力を示せ!! 真虎杖丸 顕現!!」

天に掲げた虎杖丸が眩しく輝き、光の刃(やいば)となって、大剣以上の刃渡りに変化する。

(お前、これは天帝の技……)

「そして、虎爪牙斬(こそうがざん)!!」

 素早く後ろを振り返り、はるか後方に向かって虎杖丸の横に薙ぎ払うと、光の斬撃が刃から飛び出し、空間を切り飛ばす。そしてその空間ごと胴体が分かれた三体の女戦士。

「すでに後ろに回られていたんだ……。沢村、知っていたのか?」

 唖然とする部長たちに軽く答える。

「まあね。あれだけ殺気を放っていればね」

「錬、その調子であいつらも殺(やっ)たれ!!」

「了解です。彩さん」

 俺は彩さんの許可をもらって、砦も上にいる女弓士たちに虎爪牙斬を乱れ打ちする。女弓士を瓦礫ごと吹っ飛ばし、さらに巨大な岩に亀裂を走らせ、女弓士たちの足元を崩していく。百人はいた弓士が居並び砦を堅守する壮観な光景は、今や瓦礫が崩れ、居並ぶ女弓士も総崩れで壮絶な光景に変わっている。生き残った弓士もすでに砦の中へと撤退を初めている。俺は躊躇なくその姿を全開で追うだけだ。

 そう、後は城門を吹っ飛ばして砦の先へと進むだけだ。

「みんな行くぞ!!」

 俺は城門に向かって、疾走しながら斬撃を飛ばす。木で造られたとは言え、強固に見える門は、俺の虎爪牙斬を受け砕け散り、その門は大きく開かれている。

「沢村! お前、貴重な歴史遺産を……!」

「彩さんから許可は貰いました」

 俺は涼しい顔で部長に返事をする。今大事なのは歴史遺産より留萌さんの安否だ。そして、この先に留萌さんはいるはずなのだ。

 俺が城門を突破すると、そこには女弓士がこちらに向かって矢を引き絞っている。その数30、その後方には同じだけの大剣を持った女戦士がいた。さらにこれらに守られたようにその奥には、体高3メートルはあろうかという小山のような巨大熊が立ち上がって威嚇している。その横には二人の女戦士に両脇を抱えられた留萌さんがいた。留萌さんの姿は牡丹柄の浴衣、連れ去られた時と同じ服装だった。かなり衰弱しているのか息も絶え絶えで、呪いも進行しているらしく刺青が全身に浮かびあがっている。さらにその奥には不気味に洞窟の入り口が口を開けている。あの中にはまだ相当の女戦士が潜んでいるようだ。

「「「瑠衣(さん)(ちゃん)」」」

 彩さんや麗さん、それに美優が名前を呼ぶが、留萌さんは意識がもうろうとしているのか聞こえてないみたいだ。俺は手で制して静かにさせる。俺は神がかりになって五感が人間の何十倍も鋭くなっているので、留萌さんの状況が手に取るように分かるが、他のみんなにはそんな状況とは分かっていないだろう。

「沢村、きっとあの巨大熊こそ、アルテミスに熊に変えられたカリストだ」

 俺の後ろから部長が呟く。頭の中でもベネトナッシュが頷いている。神話については話半分で聞いていたんだけど、まさか本当に熊が出てくるとはな。あいつが天星人の成れの果てと言うなら、こちらから話しかけてみるか? 争わなくてすむならそれの方がいい。

「おーい。カリストさん。えーっとカリストでいいんだよな? こんなところに恨み抱えて籠ってないで、お前も天星人なら大人しく天界に帰ったらどうだ? ベネトナッシュがお前を天まで導いてくれるぞ!」

「な、なぜ、わらわの名前を……。お前も天星人なのか? 天帝に従う気など気頭も無いわ。わらわの中に在るのはあの時の恨みの炎だけじゃ!!」

「話し合う余地はないのか?」

 俺は虎杖丸を下段に構える。それと同時に一斉に矢が放たれた。

「伏せろ!!」

 飛んできた矢をすべて打ち払う自信はある。しかし、打ち払った矢はどこに飛んでいくかは俺にも分からない。俺はみんなに支持を出し、虎爪牙斬を縦横に飛ばして敵陣めがけて切り込んでいく。そうして弓士隊と迎撃隊のほとんどを切り伏せたところで、麗さんが留萌さんの方に走り寄っていくのを目の横で捉えた。

(無茶苦茶だ!)

 俺は麗さんに近づこうとして巨大熊の爪の一撃で阻止された。こいつは速い。それにこの攻撃力、風圧だけで切れたほほに伝わる血を手で拭った。

(こうなったら麗さんを信じ、こいつを足止めし、そして仕留める)

 俺は正眼に虎杖丸を構え直し、麗さんの行動を心の隅に留めておく。

 そして、踏み込み袈裟がけに剣を振るうがその剣先を巨大な爪に止められ、すぐさま距離を取ると今度は巨大熊に向かって、無数の斬撃を乱れ打ちしてみた。

「な、なに!!」思わず口から声が漏れたが、それぐらい素早い動きで斬撃を爪でことごとく弾いて、光の弧刃は消えていく。なんて奴だ。

 再び動きを止めて、睨み合う俺と巨大熊。目に見えない闘気が無数に行きかい、一歩も動けない金縛り状態になってしまった。

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