運営のミスにより初回無料ガチャがまともに引けなかった俺は仕方がないので呪われた装備ギルティ・ノア（★0）と旅をすることになりました

第2話【俺のギルティは異世界を創りなおすみたいです①】

拝啓、お母様。

LCWの世界はとても涼しくなってきましたが、そちらはお元気にお過ごしでしょうか？

この度、私はベルさんという案内人の女性にチュートリアルを教えてもらい、初回ガチャを引かせていただくことになりました。

初めての初回ガチャということもありもちろん不安もありました・・・ですが、案内人のベルさんのアドバイスや絶え間ない励ましにより、私は何とか初回ガチャを引くことが出来ました。

念願のヴァルキリー。初めての☆5。そして何が出るか分からないという緊張とワクワクが混じり合ったザ・男の子感・・・そりゃ、もう楽しみです。ほんと楽しみすぎてちょっと、勃◯してましたね。はい。

で、そのワクワクの結果がこれですよ。

「ひっぐ・・・えぐっ・・・あたまの・・・頭の先っぽが腫れでるぅぅぅう・・・！」

魔法陣の上で女の子座りをし、両目を抑え泣きじゃくっている少女。

少女のメイド服を模した鎧には所々にメタルパーツが付属されており、背中には錆びた太刀を背負っている。

だが、何よりも特筆すべきは少女の服装じゃなく容姿についてだ。

腰まである白黒メッシュのロングヘアに青色の瞳が灯るタレ目。そしてすらっとした体には見合わない豊満な胸。首元にはNo.0というタトゥーが掘られていた。俺は唖然とすると同時に約四回は少女の胸をチラ見していたと思う。

ただ・・・可愛いけどどこからどう見てもヴァルキリーとは違うよなぁ。

さっきチュートリアルで見たヴァルキリーの容姿とは見た目や服装が全然違うし・・・。

「お、おい。お前・・・大丈夫か？」

一応心配してみる。

流石に泣いてる女の子を無視するわけにもいかないし。

「大丈夫じゃないですぅぅ・・・！！痛いですぅぅっ・・・！！」

少女の泣き声は更に大きくなっていく。

頭部を見ると今もなおたんこぶは膨み続けていた。まるでお餅だ。醤油と砂糖を付けて焼いた時の甘い味が口いっぱいに広がる。ゴクリ。

「しゃーねえなぁ・・・ほら、頭見せてみろよ。ただ頭打っただけなら、すぐ治るだろうから」

ついでに乳も見せろ！！と言いたい気持ちをグッと堪え、俺は仕方がないので少女の頭を撫でようとした。

ーーその時だ。

「そ・・・そのギルティからすぐに離れなさいッッ！！」

鼓膜を劈くような大声に、俺の身体がビクリと震える。

とっさに振り返るとベルが両腕を前に伸ばし、ブツブツと詠唱のようなものを唱えていた。

その表情に先程ののほほんとした雰囲気は感じられず、ただ殺気めいた緊迫の表情だけが浮かべられている。

え！

ど、どど、どゆこと！？

「お、おい！ベル、一体何を・・・！」

俺の追いつくことの出来ない疑問に答えるようベルは詠唱を一時中断すると、こちらを一瞬だけチラリと垣間見る。

「禊・・・！さっきチュートリアルで貴方には説明していなかったけど、ギルティの中には☆5以上のキャラが存在するの・・・！」

「☆5以上・・・！？」

俺の驚きを意にも解せぬよう、ベルは詠唱と並列しギルティについての説明を続けていく。

「そのギルティはあまりの強大さ故にいつしか★0《ロストスター》と呼ばれるようになった・・・！ただ、ロストスターの力はゲーム内のバランスを大きく崩すことになるだろう。と予期した開発者がプログラムからデータを排除して、初回ガチャから封印されていたの！いや、それどころかもっとヤバい理由もあるんだけどね・・・！」

「とにかく詳しい説明は後！今は何よりもこの災厄をどうにかしないといけないから、あんたは少し離れていなさい！！」

詠唱によって造りだされた直径20センチ程度だった魔法陣は、今となってはベルの身体をゆうに包み込む大きさに変わっている。

続けて魔法陣の中央から現れる獣のような巨腕。

魔法陣の円を掴み徐々に姿を表していくその姿は正に魔物そのものだ。

「グルルルルッ・・・！」

フシュウゥゥッッッ・・・と白い息を吐き、魔物は片手に握ったこん棒を手で弄ぶ。

おそらく俺の身体を3人分足しても、この魔物の大きさに届くことはないだろう。

・・・って冷静に説明してっけど。

「お・・・おい、ベル！一体何なんだよ、この化け物は・・・！」

「こいつは『アルゴリア・オーク』・・・！このLCWの世界でも上位に入る大型デイズよ！この化け物染みたデイズなら、流石の『ギルティ・ノア』も太刀打ちは出来ないはず・・・！」

フシュウゥゥウウ・・・と生暖かい吐息交じりに野蛮にこん棒を振るうその姿は確かに化け物だ。

おそらくこの化け物なら、漫画に出て来そうなドラゴンでも一瞬で倒せるだろう。

だけど・・・

オークがこん棒を構え襲いかかろうとしている相手は如何にもか弱そうな女の子。

持っている武器はすぐにでも折れてしまいそうな刃がボロボロな大太刀だけだ。

こんなの初めから勝ち目なんかあるわけない。

「ふえっ・・・？」

先程まで泣きじゃくっていた少女は鼻水をすすりながら顔を上げる。

彼女の頭上に立つのは自身の身体の二倍はあろう巨大な化け物。

オークはゴキゴキと首の骨を数回鳴らすと、持っていたこん棒を頭上に振り上げた。次いで目前にいる獲物をロックオン。相手を逃さないよう、威圧に似た叫び声を轟々と轟かせる。

俺はこの時、正直な本音を言えばビビっていた。

出来ることなら今すぐにでもその場から逃げ出したかったし、足の震えだって現状止まらない。

「ひっ・・・こ、来ないで・・・！誰か・・・誰か助けてっ・・・！」

ここでこの少女を助けに行けば自分も無事では済まない。

それは誰に言われずとも分かってはいた。

そう。俺自身、分かってはいたんだ。

「なっ・・・！」

それなのに俺は－－何故この女を助けようとしているんだ？

気がつくと俺の身体は少女の元に向かい駆け出していた。咄嗟に少女の細い身体を胸に抱き、彼女に降りかかるこん棒の接触を少しでも防ごうと試みる。

後方を一瞥するとベルが命令を下しオークの攻撃を止めようしていた。だが、興奮状態のオークの耳にはベルの小さな声は僅かも届かない。

胸元に視線を下ろす。俺に抱き抱えられた少女は、不安そうな表情で俺を見上げていた。

そんな顔するなよ。

今からお前だけは助かるかもしれないんだから、せめて最後くらい笑っていてくれ。

「グルァァアアアッッッ！！！」

振り下ろされたこん棒はーー俺の身体の半身をえぐった。

オークの怒涛に続き背中に激しい衝撃が走る。それに伴い、俺の身体全体を支配するとてつもない激痛。

あぁ・・・熱いなぁ。

確か、以前、何かの漫画で見た覚えがある。

人がとてつもない激痛を感じるとそれは痛みというよりは、熱いという感覚に似てくる。と。実際俺の身体を現在支配しているのは痛みではなく、地獄の劫火に身を焼かれているような苦痛だった。

・・・自らの意識が遠のいていく。

少女を見上げると奴は必死に俺の体を揺すっていた。そんなことをしても意味なんかないのに。おそらく彼女なりの償いのつもりなのだろう。あと、乳がすげえ揺れてる。

俺は震える手を少女へと差し出す。

もうすでに手の感覚もないけど・・・せめて最後におっぱいだけでも、触らしてもらえれば良かったなぁ。

おそらくもうあと2秒程で意識が途絶える。

父ちゃん母ちゃん、ほんとにごめんな。

ロクでもない駄目息子で。

来世ではちゃんと親孝行するから。達者に暮らしていてくれ。

さよならLCW・・・また会う日まで。

完