第47話 財布

7月19日


「龍星さん! 一緒に帰りましょ!」


「悪い。今日は用事があるから無理だ」


中西は校門でずっと俺のことを待っていたようだ。ずっと待ってもらっていたのに断るのは少し失礼かと思ったが今日はどうしてもやっておかなきゃいけない用事がある。


「用事なら仕方ないですね......」


中西はしょんぼりした表情でそう言った。


「俺も前もって連絡しておくべきだった」


そんな会話を交わして中西はこの場から去って行った。


俺は中西の背中を眺めながら姿が見えなくなるのを待つ。


中西の姿が見えなくなったのを確認して俺は足を動かし始めた。


俺が今向かっている場所は前にも一度だけ行ったことのあるデデデパートだ。


数分歩いて俺はデデデパートに辿り着いた。


俺はデデデパートの中に入りある店に向かう。その店というのが前に中西と一緒に行ったキュートショップだ。


女性専用という感じがして男が入るのには結構な勇気がいる。前この店に来たときは中西がいたおかげでちょっとは入りやすかったが今回は俺一人。男一人で入るのと男女で入るのはわけが違う。


俺は固唾を呑んで一歩を踏み出した。


「いらっしゃいませ!」


女性店員の声が店内に響き渡る。


俺はその声を聞いて一瞬肩を震わせたがすぐには平常を装い何事もなかったように歩き続けた。


俺は店内の奥の方に向かってあるコーナーを眺める。


「これだったっけな」


俺は財布コーナーの前に立ち中西が欲しがっていた財布を眺めた。


他の財布を見てみたがはやり中西が欲しがっていた財布は最初に目をつけたやつだった。


「よし」


俺は財布を恐る恐る手に取りゾクゾクしながらレジに向かった。


レジに着き財布を台の上に置く。店員はその財布を手に取りバーコードリーダーでバーコードを読み取っている。


「ピッ」


そのような音が俺の耳に入ってきた。


「3万8000円です」


「はい」


俺はそう言って財布から4枚の諭吉を取り出す。


「4万円お預かりいたします」


「あ、あのぉ」


「どうされました?」


「こ、これ、プ、プ、プ」


「プ?」


「プレゼント用で!」


俺は思い切ってそう叫んだ。あまりに大きい声だったので店内にいた他の客にもガン見された。


「プレゼント用ですね! かしこまりました! 優しい彼氏さんですね!」


「彼氏じゃねえよ!」


俺のその言葉を聞いて店員は肩をビクッとさせて驚いた。


俺は一度咳ばらいをして口を開く。


「彼氏じゃねえです」


「そ、そうですか」


店員の顔はやや引きつっていた。すみません店員さん。俺は心中でそう呟いた。


程なくして店員からピンク色のラッピング袋を受け取り店内から飛び出した。


「はあはあ。あんな場所に長時間は無理だ」


俺は赤くなりながらそう呟きデデデパートから外に出た。


「あーあ、給料ほとんど消えた」


俺は少しがっかりしながら自分の家に帰宅したのであった。




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