第16話 退院して学校に行くと......
事件から一週間が経ち、俺はようやく退院することが出来た。まあ退院したもののまだ骨折はしているが。
俺はそんな不自由な体を使い、久しぶりの学校に登校している。
前と同じように電車での登校だ。
すると久しぶりの登校にもかかわらず、電車で中西と会った。
電車の中なので私語はしないものの、目が何回か合う。
その度に中西は慌てながら俺から視線を外した。
特に睨んでいるわけでもないのにどうしてなのか。そんな疑問が頭に浮かぶ。
程なくして目的の駅に到着し俺は電車から降りる。
勿論中西も俺と同様に降りた。
電車から降りたことで中西がこちらに寄ってきて口を開いた。
「おはようございます! 龍星さん! お久しぶりです!」
満面の笑みを浮かべてそう言ってきた。
確かに中西と最後に会ったのは病室で会話をした時。あれから4日ほど経っているため久しぶりと言えるだろう。
俺は無視をするわけにもいかず仕方なく口を開く。
「ああ、おはよう。じゃあな」
俺は手短にそう言ってこの場から去ろうとした。すると後ろから袖を掴まれて俺の動きが止まる。
何事かと思い俺は後ろを振り返る。
するとそこには少し恥ずかしそうにしている中西の姿があった。
「何だよ」
俺がそう言うと少しおどおどした様子で中西は口を開いた。
「ひ、久しぶりの学校が、頑張ってください」
俯きながらそう言った中西。俯いているにもかかわらず、顔が真っ赤になっているのが分かる。
「はいはい」
俺は骨折していない方の手を軽く上げ、そう言いながら歩いた。
中西が少しニコッとしたのが分かった。
その後俺たちはそれぞれの学校に歩いて行った。
駅から数分後一週間ぶりの学校に辿り着いた。
特に変わった様子はなく一週間前と同じだ。
靴箱で上履きに履き替え教室に向かう。
久しぶりの学校だというのに早く帰りたくてしょうがない。
友達がちゃんといる奴なら、『おお! 久しぶりだな!』とか『待ってたぜ!』とか言われるのだろう。
しかし俺には友達と呼べる奴が一人もいない。そのため教室に入っても『こいつ来たのかよ』とか『生きてたんだ』とか言われるだけだろう。
そんなことを考えながら教室のドアを開ける。
ドアの開く音を聞いたクラスの奴らが一斉に俺に視線を集めた。
しかし次の瞬間俺の想像とは異なる出来事が起こった。
「鬼頭......」
「鬼頭君......」
クラスの全員が俺の名前をぶつぶつ唱えるように口にしていく。
俺はその様子を見て気味が悪くてしょうがなかった。
俺が休んでいる間に何か新しいルールが出来たのかと考えてしまうくらいだ。
俺はドアの前に立ち尽くしてクラスの奴らの顔を見渡す。
するといきなり一人の男子生徒が口を開いた。
「よぉ~! 龍ちゃんじゃん!」
俺に声をかけてきたのは一週間前に俺と中西を助けてくれた杉山だった。
「何だよ」
俺がそう言うと杉山が両手を思い切り広げて口を開いた。
「この鬼頭龍星こそが他校の女子高生を助けた英雄だ!」
そう言って一人で手をパチパチ叩いて拍手をする杉山。
「て、てめえ。余計なことを......」
俺は呆れすぎてこれ以上言葉が出てこなかった。
こんなことを言ったってクラスの奴らが信じてくれるはずがない。
俺は少し恥ずかしそうにしながらも自分の席に向かった。
しかしその途中、思わぬ事態が起こった。
「すげえぞ鬼頭!」
「見直したぜ!」
「すごいよ鬼頭君!」
「骨折大丈夫なの?」
そんな歓声の声や心配の声が教室内に響き渡った。
俺はそれを聞いて驚きを隠せないでいる。
ぼーっと突っ立っている俺の下に杉山がやって来た。そして耳元で囁き始めた。
「龍ちゃんが助けたのは事実だしいいじゃん! たまにはこういうのも悪くないんじゃない?」
そう言って杉山はウインクした。
確かに杉山が言ったようにこの状況に立っていても悪い気はしない。
「まあそうだな」
俺は首筋を掻きながらそう言った。
俺は少し照れながら再び自分の席に向かう。
「くそっ。こんな気持ち初めてだ」
俺は顔を隠しながらそう言った。
少しにやけている顔を見せないために。
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