第2話
「ごめん。今日の飲み会行けない。用事があって。」
「マジかー。お前で女の子達釣ろうと思ってたのに。」
「人をルアーみたいな扱いしやがって。ま、せいぜい楽しんで来いよ。」
行ったところで、飲み会と称したただの合コンである。用事と言っても、たいした用事でもない。ノートと赤ペンを買い足さないといけないし、先週買った問題集も全て三回は解いたから、新しい問題集も買わないと。
「飲みたい気持ちはあるけどな。」
リュックを肩にかけて教室を出る。と、すぐに女子に声をかけられた。内容を言えば、「仲良くなりたいから自分の連絡先を渡しておく。気が向いたら連絡してくれ。」だそうだ。渡されたメモは、無駄に女子感があるピンクの花柄。服装もピンクのフリフリ。縦に巻かれた茶髪は傷んでいる。傷み具合からして、何度も髪を染めていると分かる。メモを渡すだけ渡してさっさと帰った女子の背中を見ながら、電話番号が書かれたメモを細かく破って、その場に捨てた。
大学を出て、銀杏並木の端を歩く。歩道橋で国道を挟んで反対側の歩道に移り、もう少し歩く。そのうち、目的地にたどり着いた。八階建てのビル。一階から四階までは本屋で、五階は文具店、六階は百均になっている。あとの二階は・・・、知らん。興味がない。
五階で、お気に入りのメーカーのノートと、赤ペン、ついでにシャーペンの替え芯も買った。四階は漫画やゲームの攻略本などがあり、三階は、本当に頭がいい奴(偏見)が読みそうな本ばかりある。一度も行ったことはない。ただ今回は、なんとなく行ってみようと思った。普段自分が通らない所。他人が通らない所。ヒトが見向きもしない所を通りたくなった。エスカレーターで三階にあがり、本棚の間を歩く。いつもよりゆっくりと、足音を立てないように意識しながら。壁にたどり着いたら、次の本棚の間を歩く。その調子で、残りの通路は二つになる。折り返して、通路を真っ直ぐ見ると、変な光景が広がっていた。
女の子が居る。中学生くらいの背丈の、ゴスロリの女の子。女の子は自分の頭より高い棚から分厚い本を取り出し、ページをめくっている。その姿が綺麗だったから、つい、ついだよ?立ち止まって見てしまった。なんとなく胸糞が悪い。自分より小さい女の子が自分が読まない本を読んでいる。・・・いや、背が低いだけで、自分より年上かもしれない。きっとそうだ。
ポケットにある携帯電話が鳴る。自分が切るより早く、女の子がこちらを見て、睨んできた。一度切ってから、急いで非常階段に向かう。
「なんだよ。」
「機嫌悪そーだねぇ?」
「よくわかったな。お察しのとおり、俺今ちょー不機嫌。」
「大変だね。何かあったの?」
「お前のせいで不機嫌なんだよ!で?用件は?無いなら切るぞ。」
「まってまって、あるから。・・・Mortal、仕事だ。いつも通り内容とその他もろもろは、メールで送る。しっかり働け。」
「わかった。」
電話を切ってからため息をつく。
「ここは本屋さんです。他のお客さんに迷惑です。」
鈴みたいな声で文句を言われた。面倒くさいと思いつつ、振り返ってみる。声の主は、さっきの女の子だった。本屋の紙袋を抱えて、ありとあらゆる人間を見下すような目で睨んでいる。
「すみません。仕事の電話がかかってきたもので。」
「次からはお店の外に出てからにしてください。」
いうだけ言って、女の子は七分丈の袖を翻して戻って行った。頭をガシガシかきながら、携帯電話で今回の情報確認をする。
「おいおい。まじかよ?情報少なっ。」
お相手の顔を確認して、肩を落とした。仕方がない。仕事だから。
携帯電話をしまい、さっき女の子の後を追った。
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