第10話
夕食の時間になると、豚は子供たち手伝ってもらって切った野菜に衣をつけて次々に油で揚げました。
茶せん茄子は形良く広がって、薄く切った南瓜や薩摩芋はほっくり揚がりました。
玉葱と人参とピーマンはかき揚げに、大葉は少し温度を落としてぱりっと仕上がりました。
別のお鍋でおそばも茹で上がりました。
それに冷たく冷やしたつゆを添えて、葱を刻んで、
「いただきます!」
家庭科室に元気な声が響いて、よく働いた子供たちは天ぷらもおそばもびっくりするほどよく食べました。
おそばにうるさい校長先生にとっても、それはそれはおいしく思えました。
「おいしいねえ」
「おいしいねえ」
「うちで食べるのよりずっとおいしいねえ」
「…自分で作ったからかな?」
「…そうかもね…」
「ぼく、ピーマン切ったのはじめてだな」
「ぼく、茄子に切れ目を入れるって知らなかった。
茶せん茄子、っていうんだ。
豚さんに教えてもらったんだ」
「あたしも! あたしも切った! おそばも作った!」
「ミサキの作ったのは粘土細工じゃないか」
「ちがうもん!」
ミサキがほおを膨らますと、
「そうだよ。
ちゃんと豚さんがそばがきにしてあげたもんねえ」
すかさず豚がフォローしました。
「うん、そうだよ!」
ミサキはすぐ機嫌を直しました。
「…みんな、もう、家でもお母さんを手伝えるねえ」
豚がしみじみ言うと、
「豚さんの言うとおりだ。
引っ越ししたら、おとうさんやおかあさんはうんと忙しくなるだろう。
…おとうさんの言うことをよくきいて、お母さんのお手伝いをよくするんだよ」
先生も続けました。
ワイワイ話しながら食べているうちに、山盛りだった天ぷらもおそばも、いつしかすっかり売り切れていました。
さあ、最期はキャンプファイヤーです。
校長先生と豚が、あらかじめ校庭を掘って薪を組んでおいてくれたのです。
燃え上がる火を囲んで歌ったり、音楽をかけてまた盆踊りを踊ったりしたあと、先生と子供たちが花火をしている間に、豚はしかけておいた焼き芋を掘り出しました。
濡らして太い釘を刺し、ホイルに包んで埋めておいたのです。
「お芋だあ!」
「焼き芋だあ」
みんな歓声を上げてあちっ、あちっと言いながらほおばっています。
歌って踊っておなかのすいたところに、涼しくなった夜風に吹かれて、ほかほかの焼き芋を食べるのは楽しいものでした。
何もかもがこれ以上なくうまくいって、天そばキャンプは大成功のうちに終わりました。
「本当に、何から何までありがとうございました。
子供たちがあんなに喜んでくれたのも、ご主人のおかげです」
翌朝、子供たちが連れ立って帰ったあとで、校長先生はそば屋の主人の豚に心からお礼を言いました。
「後片付けまですっかり手伝っていただいて、助かりました。
すっかりお世話になりました。
近いうちに、改めてお礼に伺います」
「こちらこそ、久しぶりに小さい子供たちと遊んで、楽しませてもらいました。
またお会いするのを楽しみにしていますよ」
豚は笑って片手を大きく振ると、帰っていきました。
けれどその後ろ姿はなんだか急に小さくなったように見えたのでした。
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