第2話

「雨が降っても家庭科の徒調理室を使えばいいし、給食室で食べればいい」

 

 学校では、今は生徒が二人なので、よそで作った給食を自動車で配達してもらっていますが、その昔は何人もの給食のおばさんたちが、生徒のためにおいしい給食を作ってくれていたのです。 


「テントはないから、夜は宿直室に泊まるとして、布団はもう古いから、貸し布団を頼もう。いやいや、ようく日に当てれば、今でも十分使えるかもしれないし」

「キャンプファイヤーが無理なら、花火大会でもいい」

「そうだ、すいかを用意してすいか割りなんて手もあるぞ」

 小さいすいかなら食べきれるだろう。

 もし余ったら、わたしの家で引き取ったっていいのだ。

 家庭科室の冷蔵庫はまだ動くかな。

 それから、それからーーー」


 考えているうちに寂しさはいつの間にか消えてしまって、校長先生は次第にわくわくしてきました。


「さあ、今考え付いたことを、家へ帰ってひとつひとつ、詰めてみようか」


 


 帰り道、校長先生は楽しい計画をあれこれ考えながらおひさまの照る田んぼの中の道を歩いていました。


「…そうだ、今日からコノエは健介のところに行っているんだった…」

 

 コノエというのは先生の奥さんの名前です。

 昨日の夕方、学校から帰るなり奥さんに言われたことを先生は思い出しました。

 奥さんは、一人息子の健介さんのところに一人目の子供が生まれたので、今日から泊りがけで世話をしに出掛けているのでした。


「…一実さんのお母さまがね、この暑さで体調を崩されてしまって、急にいらっしゃれなくなってしまったんですって。

あんまり大変そうだから、母さん、三日でも五日でも手伝いに来てくれないかって、健介が言うのよ。

あなた、わたし、暫く健介のところへ行ってきてもよろしいかしら?」


 その晩のうちに慌ただしく荷造りを済ませた奥さんは、今朝、先生を送り出した後、息子のいる遠くの県まで出掛けたはずでした。


「お食事はきちんと摂ってね」


と言い残して。



「…仕方ないなあ…。

 これから家へ帰って作るのもおっくうだし、第一、冷蔵庫に何が入っているか、知らないもんな。

 …県道の先に、この間コンビニが出来たって聞いたから、ちょっと足を延ばして、何か買って帰るか…」

 

 来た道を戻って、県道へ向かって五分ほど歩いたときです。

 道端に一軒の小さい店が、のれんを出しているのが目に入りました。


「手打ちそば とんとん庵」


 おや、こんなところにこんな店がーーー?

 校長先生は不思議に思いました。

 いつの間に出来たんだろう? ちっとも気がつかなかったーーー


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