ハイドラ・レポート【適合者シリーズ5】
東江とーゆ
アリッサ・オードリー・上杉
初動
事態は最悪だ。
我がチーム結成以来、初めて訪れた壊滅的状況。
最も憂慮すべきは、聡太郎の失踪。
我がチームは任務に失敗したのだ。
私、アリッサ・オードリー・上杉が率いるチームの任務は山村聡太郎の監視警護だった。
私たちは協会に所属している、協会は『外の神々の情報の採取、調査、検証、管理、等を通じて秘匿を目的とする団体』であり、任務は秘密裏に遂行される。
その情報は人類が知るべきではない知識であり、それを知ることは、危険なクリーチャーとの遭遇、破滅をもたらす魔術や呪詛に晒され、人として正気を保つことや、生存を困難にする。
山村聡太郎は、外の神の一柱ナイアーラトテップの神託に従い誕生した『適合者』だ。
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事の始まりは、24日の月曜日。
日曜日に入会が仮承認された『小早川水希』が過去に白昼夢で見た『クリーチャーと遭遇した他人の記憶』の内容の報告が山村聡太郎からあった。
放課後に聴取したようだ。
未だ正式に協会員になった訳ではない小早川からの聴取の方法やタイミングには配慮が必要だった。
聡太郎は他人に関心がないように見えて、意外と他人の心の動きを読める。
それは心理や機微は読み解けなくても、配慮はできるといったところか。
突然の聴取だったが、それは致し方ないだろう。
機を逸するよりマシか。
聴取できたのは2つの白昼夢の内の1つ『中学生の時、偶々訪れたドラッグストアの店員の男性の記憶』である。
記憶内容は薄暗い森の中で、カンガルーのような姿の二足歩行の黒い怪物一体と遭遇。
手は鋭い爪があって、足は蹄。
犬のような顔で目は緑色に光っている。
白昼夢では、怪物の不気味な姿に恐れることなく当たり前のように対峙している男性の心情が伝わってきたという。
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形態の情報からその怪物、クリーチャーがグールだということは直ぐに判る。
グールは人間や動物の死骸を食らって生きるクリーチャーだ。
腐敗臭と黴臭さが混じった異臭をさせる。
人間と話すこともできるが、早口で音が割れていて聴き取るには慣れが必要だ。
凡ゆる地域に潜み暮らしているが、警戒心が強く人前に姿を見せない。
魔術でグールを呼び出すことはできる。
呼び出しても使役はできないが、取引は可能だ。
用意した貢物などが気に入れば、ある程度の助力や助言は得れる。
我がチームでグールの接触魔術を使えるのは、私と中島だ。
聡太郎の監視警護に当たり、瀬越丘陵地域に暮らすグールのグループ『タルタロスの子ら』に滝弁天に人間が近づくことを阻止して欲しいと協力依頼する。
しかし誰も彼も阻止対象者にすれば、グールは自分たちの存在が人目に晒されるリスクを高めてしまうと難色を示す。
そこで私と中島は致し方なく、阻止対象者を山村聡太郎だけに絞った。それは聡太郎の情報を、もちろんショゴスに関する話題は絶対秘密だが、ある程度はグールたちに開示することとなった。
グールは協会とは協力関係にあり、この程度の助力には応じてくれる。
これは私と中島以外、他のメンバーには知らせていない対策だ。
他のメンバーに知らせずにグールを任務に組み込むことは、私と中島の常套手段だ。
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聡太郎が報告してきた、小早川の白昼夢の確認をしなくてはならない。
報告を受けて直様、中島を呼び出し『崎原市金田にあるドラッグストアにグールと遭遇した男性がいる』ことを伝える。
中島の采配で調査するように指示した。
中島からは、面通しのため小早川水希を店に同伴させたいと申し出があり了承した。
中島は、別件で20日から渡米している北条以外のメンバーに調査任務の人員配置を指示する。
25日の火曜日。
中島は調査指揮を執る、また秘密裏にグールと接触する予定。
舎人と比留間は通常の山村聡太郎監視警護に加えて、放課後に小早川水希を伴いドラッグストア店員の面通しによる本人確認。
小暮と榎本は、東京近郊西部にある協会の資料館にて過去に情報収集した記録を調査。
日下は、通常警護任務。
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25日の正午、小暮から中島に連絡が入る。
資料館の記録から、ドラッグストアの店員は『はぐれ堂の出身者の末裔で妃陀羅の神子、今頭礼央』だと判明する。
協会の調査では妃陀羅とは、旧支配者クトゥルフの眷属であり自身も神性を有する『母なるヒュドラ』だと判明している。
ただし、妃陀羅を祀っていた集落はぐれ堂は、今では誰も住まない廃墟であり、元住民も四散している。
移住していった末裔に伝えられている祭儀は形骸化したもので、ヒュドラの神性を引き出すような脅威はない。
現状を鑑みて、はぐれ堂出身者に対する協会の警戒や関心は薄い。
ただ神子という存在には『グールとの接触』の魔術を授かる形でヒュドラの魔力の影響が色濃く残っているため、協会も数年に何回かの追跡調査は継続している。
この情報から推測すれば神子である今頭礼央がヒュドラの魔力でグールに接触した時の記憶を、小早川は白昼夢で見たことになる。
中島は私に小暮の情報を報告する。
私と中島は、はぐれ堂の廃墟は再度調査してヒュドラの痕跡や影響が本当に失われているか確認した方がよいだろうと結論を出す。
私は小暮には同伴している榎本を連れて、はぐれ堂の調査に向かうように指示。その際、日下とも合流して3人で調査するように伝える。
また舎人と比留間には一時的に日下が警護任務から外れる旨を伝えた。
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