卒業祝

 1月。上級生は受験を控える方もいれば推薦入学で暇を持て余している方もいて、様々な時の過ごし方が見られた。美術部の3年生は夏に引退して、広い部室が余計に広く感じられた。放課後は活動時間が短く、みんなスケッチブックにイラストを描いて時間潰しをしていた。私は早くアトリエで作業したい衝動を呑み込んで創作に向かった。



 実家が裕福なおかげで、自分の部屋に付け足して作業場を持てるようになった。夢にも見た自分だけのアトリエ。誰のものでもなく素材も沢山で、何よりに褒めてもらいたくて……。でも、やっぱり私の作品を誰かに見せると否定されてしまう……、描いているだけでも十分楽しいからいいんだけど。


「おーい、流華ルカー? 帰ろーよ」


「えっ、あ、うん。ちょっと待ってて!」


 どうやら作業に没頭してたみたいで、部室に居るのは私たちを含め、あと3人だった。片付けている際に、カバンの奥に創った絵筆が紛れ込んでいるのを見つけたけど、どれも傷んでしまっていた。家に帰って処分しようと思い、何とかしまい込んでいざ下校しようとしたところに、元美術部の矢野先輩が呼びに来た。


大代おおしろー? お、いた」


 制服の第一ボタンは留めないで、茶髪の地毛が所々はねている姿にプラス上背が高いから、ネックレスか何かアクセサリーを付け足すと、どうやっても大学生くらいに見えてしまう外見がドアに寄りかかると、誰でも胸がときめくような雰囲気で室内を満たした。

 幸い部室には既に私と美欧ミオだけだったので影響は無いままに終わった。まあ、目的は黄色い歓声を上げさせるためじゃなく、私に対しての用事なのでそちらを優先していった。


「この後、空いてる?」


「空いてますけど……。何か用でも?」


のことについて、な。校門前で待ってるから」


 先輩から出すオーラが変わって、そのまま部室から去った。私も鞄を担いで、



「美欧、ゴメン! 先輩と帰ることになったからまた今度!」


「えっ、ちょ、抜けがけ禁止だって!」


 申し訳ないけど用事は用事であって断じて抜けがけではなく、そもそも先輩には好意など一切無かったから校門前に直行した。が、下駄箱に紙切れが入ってたので校門はスルーして自宅へ向かった。

 案の定、先輩は待ち合わせ場所にいなかった。

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