約諾の弦

朝陽うさぎ

夕夏

4才

「おかあさんは、ぎゃくたいなんてしないよね?」


「……えっ」


 自分が産んで4年間育ててきた長女の口から、意外な単語が飛び出した。どこで覚えたのだろう。テレビ? ラジオ? それとも実母から?

 驚きが冷めないうちに、もう一度、問われた。


「ぜったいに、しないよね?」


 長女は、生気を失った目で、私を見つめ続けた。金縛りにあっているようで、動こうとしても動けない。たった30秒しか経っていなかったのに、何年もそこに立ち止まっているように感じた。

 やっとか我に返り、軽く呼吸を整えると、渇ききった唇を開いて、かがんで視線を長女と合わせた。


「しないよ。絶対に」


「ほんとうに? うそじゃないよね」


 なぜ私が嘘をつかなければいけないのか不思議だったが、やはりこの返事しか答えようがなかった。


「ママは嘘をつかないよ」


「じゃあ、ゆびきりしよう!」


 そう言って、小さな小指を差し出した。私も、その手を包み込むように指を組ませた。


「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます! ゆびきった!」


 幼稚園で教えてもらった指切りの歌を、無垢な声で歌っていた。しかし、それは叫んでいるにも等しいような声だった。

 私は作り笑いの表情をうかべ、そっと手を離した。温もりはかすかに残っていた。


「やくそくだよ……。おかあさん」


 どこか、哀しそうな声が脳内で響き渡った。

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