浅慮な私は働きたくない

えまま

働きたくない

「働きたくないなー」


 学校の帰り道、私はそんなことを呟いた。

 夕方でも暑い。これだから夏は嫌いだ。


美遊みゆ、そんなに働きたくないの……?」


 一緒に帰っていた、友人の千紗ちさ

 私の名を呼び、反応してくれる。


「だって嫌でしょ? 毎日毎日、満員電車に乗ったり」


 私たちはもう高校三年生。

 大学に行く気も理由もない。から、働くつもりだ。

 バイトもしたことが無い私がそんな不満を漏らすと、遠くで電車の走る音が。


「機械のように働いて、クタクタに疲れて家に帰る。その繰り返しだよ」


 周りを見ていれば、十分わかる。

 みんな、そんな感じだもの。

 遊ぶ気力も起きないほど、疲れて。


 踏切の遮断機がおりる。

 踏切の前で待つ私たち。


「千紗はどう思う?」


 私は千紗に尋ねる。

 今思えばアバウトな質問だったな。

 千紗はすこし思案し、ゆっくりとこたえる。


「……別に、それでいいと思う」

「それでいい、って?」


 目の前を電車が通る。

 疲れきった顔をした人たちが、一瞬だけ見えた。

 電車が通り過ぎ、遮断機があがる。

 私たちはまた、歩き出す。


「機械のようで、いいと思う」


 さっきの答えの詳細だろうか。

 千紗は続ける。


「例えばだけどさ、あの遮断機」


 振り返り、千紗は指さす。

 先ほどまで、私たちが居た場所。

 さっきまでおりていた遮断機。

 今は空を向いている。


「あれも機械でしょ?」

「そうだけど……」

「私たちがいない時でも、誰もいない時でも、変わらず動きつづけるでしょ?」


 たしかにそうだ。

 電車が来る度に、決まった通りに動く。


「私はそれでもいいと思うの。誰が見てなくても、頑張れるのなら」


 うすく微笑む千紗。

 彼女がなにを思っているのかはわからない。

 ただ、私よりよっぽど大人びている。


「そういうもんなのかな……」

「そういうものだと思う。ネガティブに受け取りすぎない方がいいよ。気楽に、ね?」


 私に千紗は、笑いかける。

 深く考えすぎていたのかもしれない。

 多少は、ポジティブにとらえたほうがよいのだろう。


「……そうだね。じゃ、気を取り直して……コンビニ行こう!」

「また買い食い? 太るよ?」

「いいの! 行こっ!」


 私は千紗の手を引き駆ける。

 今は、この時間を楽しもう。

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浅慮な私は働きたくない えまま @bob2301012

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