第12話「サプライズ3連発!」

「もしも困った事があればすぐに言え。絶対に言え!」


「は、はい!」


「俺は誰の前でも堂々と、お前を嫁として扱い、しっかり守る! オヤジやオフクロからも、当然エリザベスからも、だ!」


「はいっ!」


 ああ、私には分かる。

 この人はちまたで聞く無責任な夫じゃない。


 『駒』という道具ではなく、私を『人間』として、

『個人』として認めてくれた。

 そして「私を守る」と、はっきり約束してくれたから。


 アーサーの言葉を聞き、私の心に安堵と勇気が生まれる。

 だから大きな声で返事をする事が出来た。


 と、ここでまたまた想定外なサプライズが!

 

「よし! では、とりあえず着替えよう。夜が明けたら朝飯を食べる。俺とお前、そしてエリザベスと3人で一緒にな」


「え? 3人で一緒に朝食を?」


 先ほど微妙な壁があると言ったのに?

 まだ「国交は正常回復していない」というのに……

 どうして、私と『小姑ちゃんエリザベス』が一緒に食事を?

 

 私は驚いてしまった。

 目が真ん丸になっているのかもしれない。

 

 そんな私へ、アーサーは黙って頷いていた。


 そんなこんなで……

 やがて午前6時となった。


 私が聞いたこれからの段取りはこうだ。

 

 アーサーはまず、エリザベスへ、侍女を使いに出した。

 1時間後に、迎えに行くと伝言と、

 「朝食を3人一緒に食べよう」というサプライズも合わせて。


 そして私イシュタルを連れ、朝食を用意した部屋へ行く。

 オーギュスタを護衛に付け、一旦部屋に私を残し、

 彼アーサーがエリザベスを迎えに行くのである。

 

 アーサーは悪戯っぽく笑い、念を押した。

 

「良いか? 忘れるなよ。……エリザベスを連れて来た俺がノックをしたら、イシュタル、お前ではなく、オーギュスタに返事をさせ、出迎えさせるのだぞ」


 え?

 どういう事、それ。

 わけが分からない。

 

 でも分かった!

 またこの人、絶対『何か』を企んでいるって。


 アーサーは、まるで子供のような笑顔で、手を振って出て行った。


 戻って来るのを待つ間、私はオーギュスタに話しかける。

 昨夜の『やりとり』があった結果、彼女は彼をどう思っているのか、

 聞こうと考えたからだ。

 

「オーギュスタ」


「はい」


「お前に出迎えをさせるとか、アーサー様は、一体何を考えているのでしょう?」


「……私にも皆目……でも何か、お考えになっているはずですよ」


 と答えるオーギュスタは晴れやかに笑っている。


「そう……よね」


「はい、でも大丈夫です。けして悪いようにはなりません」


「ええ、きっとそうね」


 オーギュスタは変わった。

 アーサーへの評価が……

 

 さすがに百戦錬磨の戦士。

 彼の『真の姿』をはっきりと見抜いている。


 でも単に器が大きいと見ているだけではない。

 人として、誠実だから、思い遣りがあるから、

 彼女はアーサーに対し、好意的となったのだ。


 ここで私にはピンと来た。

 女子の『好み』って極端には変わらない。

 

 オーギュスタの理想の男性は……私の父……

 で、あれば同じタイプであり、スケールが遥かに上のアーサーを、

 好きになるのは当たり前かもしれない。 

  

 さてっと……

 私は思考を切り替える。

 一体3人で摂る『朝食』はどうなるのだろう?


 そもそもエリザベスは、私との同席をOKするのか?

 また、どのように答えるのであろうか。

 

 もしかしたら、理由も言わず、あっさり断る?

 その可能性は……大だ。


 期待と不安が交錯する中、

 私はじっとアーサーが戻るのを待ったのである。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 約15分経って……

 意外にもアーサーは、私の予想に反して、エリザベスを伴い戻って来た。


 う~ん。

 やっぱり気になる!


 あの子は、私が同席する食事へ誘う兄へどのように答え、了解したのだろう?

 と、いうかアーサーはどうアプローチし、彼女をくどいたのか、

 凄く凄く気になる。


 そして……

 ノックがされた。

 

「はい!」


 打合せ通り返事をしたのは、私イシュタルではない。

 オーギュスタである。


「待たせたな、アーサーだが」


「はい! 今、すぐ開けます」


 あらら、相変わらず、オーギュスタの機嫌は良い。

 笑顔で扉を開けた。

  

「うふふ、アーサー様! お疲れ様です!」


「え? 貴女はアヴァロンの?」


 優しい笑顔を浮かべる、オーギュスタを目の当たりにして…… 

 それまでは余裕で澄ましていたらしいエリザベスも、

 さすがに驚いてしまったようだ。


 エリザベスが、驚いたのは当たり前かもしれない。

  

 私が輿入こしいれした際、当然の如くだが、

 オーギュスタが『侍女』というい名目で護衛についていた。


 しかし……

 オーギュスタがただの侍女ではない事は一目瞭然。

 誰が見てもはっきり分かる。


 アヴァロン製のごつい革鎧に身を固め……

 肩幅が広く、二の腕がムキムキ、全体の体つきも超がつくたくましさ。


 その時のオーギュスタはいかめしい顔付きで、

 周囲を睥睨へいげいしていた。

 

 もう完全に敵側。

 こわもての『女武官』という雰囲気。


 そんな報告を……

 出迎えを欠席したエリザベスは、侍女から受けていたはず。


 だから、エリザベスは驚いたのだ。

 目の前で優しい笑顔を浮かべるオーギュスタが、全くの別人に見えるから。

 

 でも……

 実はアーサーの『サプライズ』は、私とエリザベスだけに止まらなかった。

 

 何と、オーギュスタにまで「ドカン!」とさく裂した。


「じゃあオーギュスタ、お前には俺を手伝って貰おうかな」


「へ? 私がアーサー様をお手伝いする? 何をでしょう?」


 全く想定外の指示に、オーギュスタはきょとんとしていた。

 あどけない少女のような仕草で。

 

 当然だろう。

 ただ「部屋で待て」としか、アーサーは私達へ命じてはいないから。


「は~はははははははははは!」


 びっくりしている私とエリザベス、そしてポカンとしたオーギュスタを見て、

 3人へのサプライズを成功させたアーサーは、思い切り高笑いしていたのである。

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