第3話「いきなり不在!?」
国境沿いのデルフリ村を出てちょうど10日後……
私を乗せた馬車はアルカディア王国首都ブリタニアについた。
馬車の窓からの「ぱっと見」だが……
アヴァロンの王都アーチボルドに比べると、ふたまわりくらい街が小さい。
王家の馬車は目立つらしく……
街中を進むと、人々が注視したり、手を振ったりしていた。
まもなく王宮だ……
そう思うと、私はだんだん緊張して来た。
いよいよ、夫となるアーサー・バンドラゴンに会うのだから。
私はアーサーに、夫となる男に会った事がない。
いくら大人びているとか、アヴァロン漆黒の魔女とか、もてはやされても、
私はまだ16歳の女子。
平静でいろと言われても無理な話。
こんな時は対面に座るオーギュスタがつくづく羨ましい。
彼女は歴戦の勇士として、いくつもの死地を乗り越えて来た。
肝が据わっていて、私のように緊張したりしない。
ちなみに私だって戦闘の経験はある。
父と共に、王国軍付きの魔法使いとして出撃、
後方から魔法で害を為す魔物を多数倒した。
でも敵と直接戦うオーギュスタに比べれば、経験不足が著しいのは否めない。
そうこうしているうちに、石造りで武骨な趣きの王宮へ着いた。
ここがアルカディア王国王家、バンドラゴン家の館である。
この王宮の中に、私専用の部屋が与えられ、新たな生活の場となる。
正門が大きく開け放たれ、馬車が滑り込んで止まった。
やがて扉が開けられ、私を護衛して来た騎士達が整列した。
当然マッケンジー公爵が居り、仕切る立場となる。
私がそっと見やれば……
出迎えらしき『王族』がふたり立っていた。
あれ?
ふたりだけ?
あとふたり、足りない?
国王のクライヴは病に臥せっているから、この場へ来れないのは当然として、
あと4人……
再び見やれば、40代らしき女性がひとり、多分彼女はアーサーの母、
王妃アドリアナに違いない。
もうひとりは……10歳を少し超えたくらいの少年、
彼は第二王子コンラッドだろう。
少しふくよかな体型である。
アーサーはやせ型長身で、私とあまり変わらない15歳だと聞いている。
だから年齢と容姿が合わない。
となれば、私の夫アーサーは?
わがまま小姑エリザベスは?
不吉な予感がよぎったが……
とりあえず出迎えてくれたふたりに、挨拶しなければならない。
馬車から降りた私は、速足でアドリアナ達の下へ。
方針通り、腰を低くして挨拶する。
「アドリアナ様、初めまして、イシュタルでございます。
対して、やはり低姿勢が好印象を得たのか、アドリアナは優しく微笑んでくれた。
「あらあら、これはご丁寧に。こちらこそ初めまして、私がアドリアナ・バンドラゴンです。長旅ご苦労様。これからは気軽に母と呼んで下さいね」
良かった!
まずは『お姑様』へファーストインプレッションOK!
好感度……アップかな?
続いて……
「コンラッド様、イシュタルでございます。不慣れでご迷惑をおかけしますが宜しくお願い致します」
「いえいえ、こちらこそ! 改めまして、コンラッド・バンドラゴンです。姉上とお呼びしても構いませんか?」
「は、はい……」
「ははは、さすがにアヴァロン漆黒の魔女! お美しい! 兄上には本当にもったいない!」
出発前、父に聞いたが……
アルカディアにおいて、愚鈍なアーサーより、
この第二王子、次男のコンラッドが利発だと、将来を嘱望されているらしい。
アドリアナに可愛がられているのもコンラッドのようだ。
もしアーサーが廃嫡され、コンラッドが後継者となるのなら、
『殺す標的』を変えるよう父からは厳命されている。
しかし良い評判に反して、私が見た限り、コンラッドの第一印象は、
あまり良くなかった。
何となく、生理的に好きではない。
小利口、小賢しいという宜しくないイメージである。
複雑な気持ちとなったが……
ここでアドリアナが、突如謝罪する。
「イシュタル、ごめんなさい」
「え?」
「アーサーは不在です。所用で外出しています」
「は? 不在?」
所用で外出!?
何それ?
私が到着する日時は分かっていたはず。
いきなり夫が不在!?
何なの、もう!
上った梯子をいきなり外された気分……
そして、
「重ね重ねごめんなさい。エリザベスは体調不良で、お出迎えを欠席しますって」
はい、そうですか。
こっちは想定内。
体調不良?
多分仮病じゃない?
って、心が疑心暗鬼。
ダークサイドへ堕ちようとした瞬間。
オーギュスタが進み出た。
「アドリアナ様、私は侍女のオーギュスタです。下々の身ながら、直接お尋ねして構いませんか」
「構わないわ、聞いて頂戴」
「イシュタル様は長旅でお疲れです。担当の者に命じて頂き、お部屋へ案内しても」
「え、ええ。構わないわ。こちらで付けたイシュタル担当の侍女に案内させます」
こうして……
私は夫不在という、大アクシデントに直面しながら……
自室となる部屋へ案内して貰ったのである。
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