第45話 マニア大戦25 2018年 春
10数年後の2018年。春先の、ある日曜日の昼のことだった。
マニア氏が、ぼくの自宅にやってきた。
それ自体はよくあることだが、この度の用向きは、いつもとちょっとばかり違っていた。彼との会話をご紹介すれば、「哲学論争」ならぬ「鉄学論争」をした者たちの強さと弱さを、同時にご紹介できるでしょう。この日自宅には、たまたまぼくしかいなかった。
いやあ、太郎さん、今日伺ったのは他でもありません。実は京橋氏に昨日久しぶりにO県立図書館で会って話したところ、瀬野氏の消息が分かりましたわ。神戸のオッサン、過労で倒れはったそうです。無茶苦茶な仕事を自らに課し続けたのが原因ですよ。幸い危機は脱したそうですが、思うところあって、ご両親が止めるのも聞かず、彼自身が蓄えたウン十年来の鉄道書籍を、4トントラックを呼んで、自ら、すべて処分したそうです。どこにどう処分したのか、金になったかどうかはわかりませんけど。京橋氏の話では、確かにもったいないが、これまで培った基礎があれば、あとはネット環境があれば何とでもなると言っていたそうですが・・・。
「君も、そうそう人のことなんか言えないだろう。あの「論争」のときより、間違いなく、君たち二人とも、いい年じゃないか。まあ、ぼくも人のことは言えないけどさ」
「それはともあれ(苦笑)、彼は、何と言っても、自ら蓄えた莫大な知識とそれに「寄って」得られた知恵を使って、これまで色々やって来たオカタですからねぇ」
「いつかほら、見せてもらったことがあるだろう、鉄道ジャーナルの竹島編集長の名文。あれをふと今朝思い出したよ。ちょうど君が張り切ってプリキュアに「亡命」していた時間帯だよ。そんな矢先に、その話かぁ。彼ほどの人間がある意味「壊れた」わけだろ。まさに、竹島さんの名言の公式どおりじゃないかよ」
「莫大な知識を武器にする者は、いつか、その莫大な知識の前に倒れる、と」
「そういうことになるね。彼はこの期に及んで、莫大な知識と、抜け殻となった本の『重み』に、ついに耐えられなくなったのではないかな?」
「なるほど、太郎さん、それはすばらしい分析ですね。実際のところ、そんなものでしょう。私も鉄道趣味の会播備支部で少し役をやって、しんどくなって潰れた経験がありましてね。結局私も、鉄道趣味関連組織で立ち回ることを武器としてきたのが、自らの力に刃を向けられて、潰れた経験がありますからね」
「ということは、基本的な構図は一緒じゃないか。竹島さんの「公式」通りだよ、彼も君も。そういう意味では、あの「論争」が行われたこともそうだけど、君たちの「邂逅」自体が、偶然なんかでは決してなくて、必然だったのではないかな」
マニア氏は唸っていた。どうやら図星だったか。
しかし彼もまた、転んでもただでは起きない人間。
「進化」の道を見つけて、前進していくしかありません、との仰せ。
もっともそれはマニア氏だけでなく、瀬野氏も同じ。
あくまで一人の人間として、彼らが鉄道趣味人としてこの後どれだけ「進化」していくかを見届けたい。そんな思いが、ぼくにはある。
そうそう、このときの若手社員の土井正博氏、今は営業部長になっているのだが、あの対談を本にしたらどうかと先日提案してきた。
資料と解説をしっかり付けたら、いろいろな意味で興味深いコンテンツができるだろう。あるいは、あのメンバーでの再対談をしても面白いかもね。幸いなことに、鉄道趣味は以前よりさらに世間に「認知」されてきたようだし、興味を持って聞いてくれる人も、以前よりは多いように思われる。
近くまた、「対談」を企画してみるのもいいかもしれない。
そういうわけで行われたのが、「鉄旅談義」です。そちらについては、いずれまたご紹介したいと思います。
何はともあれ、あいつらの対談に付合うのは、大いに疲れました。
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