第41話 マニア大戦21 鉄道部品の「所有欲」

 そのうちに、よせばいいのに、またも、種村ネタ?

 種村直樹氏の自伝「きしゃ記者汽車」に出てきた(その前に鉄道ジャーナル誌で連載されていた)ある事件の話がきっかけに、鉄道部品の話へ。


 「しかし、種村氏の学生時代のサボ盗みの告白は、賛否が当時からありましたな」

 マニア氏の弁を受け、瀬野氏が、吐き捨てるように言う。

 

 あの種村が大学時代にサボを盗んで云々、ですな。そういえば、おりましたな。私は中1でしたけど、1984年の秋頃「山陰線電化反対同盟」なる「団体」を名乗って列車妨害をして、捕まってみれば「救援列車が撮りたかった」と述べたボンクラ医大生らのグループ、おったでしょう。後に新聞で、大井川鉄道のC12のナンバープレートはじめ相当な部品を盗んでいたという続報が出ました。

 確かね、列車妨害のときの新聞の見出しは「鉄道マニアを逮捕」にしていました。

 その後、主犯格のボンクラ医大生は確か実刑判決を食らったはずですが、出所したとして、どの面下げて娑婆に出られたことか。

 種村がそれらと同類とまでは言いませんが、その記事の定義からすれば「マニア」ですがな。マニアがマニアに「部品泥棒はやめろ」とか言っても、効き目なんかないでしょうよ。

 そうそう、米河さんが京橋君といつぞや話していた、何とかチュウとかいう御仁の話。あんなのは鉄道趣味人の風上にも置けません。ゲのゲも、極みですな。


 「あの青木ことアオチュウの話ですな」

と、マニア氏。

 たまきちゃんが、思い出したように指摘するのを、マニア氏が話をつなぐ。

 「確か、石本さんが太郎君とせいちゃんに、鉄研の例会でその人の話、していたでしょう。キセルというか、不正乗車をして大阪駅で捕まった話、覚えていますよ。私、たまたま、太郎君に会うために鉄研の例会のぞいたら、そんな話、されていましたね」

 マニア氏が、その点について解説をしてくれる。


 ああ、それ、私が高校生の頃ですな。

 その話ですけどねぇ、写真仲間の杉尾なる人物(マニア氏と同じくらいの年齢で、アオチュウこと青木氏よりかなり若い)、私も会ったことが何度かありますけど、彼が京都駅で先に改札を出て入場券を買ってきてくれたのを受け取って、それで出ればよさそうなものを、乗った駅からの140円の乗車券を出してしまったものだから、ばれちゃったってわけですわ。

 そういう不正乗車がいいとは、無論、言いませんけどね。

 その「アオチュウ」がねえ、(EF65)PFにつけられたブルートレインの「瀬戸」号のヘッドマークを宇野駅で盗もうとしたことがありまして。

 ヘッドマークを機関車から外したのはいいけど、その時に使った工具を落とした音がきっかけで、国鉄の職員にばれて捕まったこともあるそうです。経緯も確かにキセルの話と一緒で「どんくさい」のですが、その時の彼の言い訳がすごくてね。


 「あれは名セリフだね」

と、ぼくが一言述べたのを受け、マニア氏が、一言。

 「ヘッドマークのない写真が撮りたかった」

 会場に失笑とも爆笑ともつかぬ笑いが起こった。

 

 かの瀬野氏、笑いもせず、ムスッとして、いささか「追及」気味に食って掛かる。

 「確か米河さん、京橋君相手に、彼の話をしておられましたね」

 マニア氏が、さらに続ける。 


 ええ、しました。

 京橋氏相手なら、こういう情報は出しておいた方がいいですから。彼の知人が結婚記念か何かの列車を動かして、それにあの「アオチュウ」が乱入しかねないという話があって、いろいろ対策しているうちに、問題が大きくなりかけたことがあったそうです。

 ちなみにその「アオチュウ」は、あちこちに写真を撮りに行っては、列車のサボやら方向幕やら何やらを盗んでいて、国鉄だけでなく他の鉄道会社からもにらまれていましてね。先ほどの「瀬戸」のヘッドマーク窃盗未遂事件がきっかけとなって、アオチュウこと青木宅に警察の家宅捜索があったそうです。彼は、体型は太めで、シャツをだらしなくズボンから出して、しかも上下とも結構、うす汚れていて、夏でもあまり風呂に入らず服の着替えもそうなくて、ま、服が「限定運用」ですから・・・。

 何と申しましょうか、何とも言えない悪臭がするのだそうですわ。

 ちなみにねえ、私が毎月必ず行くK市の散髪屋の方ですが、私より1歳上の彼も、鉄道ファンで、子供の頃から写真撮影が好きな方ですわ。中学生ぐらいの頃、夜中の岡山駅に行って、ブルートレインを撮影していたこともあるそうで、そこでもあの「アオチュウ」を見かけたことがあるそうです。その頃、写真を撮りに関西に行っていた時に、あのアオチュウが何人かと、確か急行「きたぐに」だったかのサボを盗んでいるのを見たことがあると言っていましたよ。走行中に、見張りの仲間をつけて、それで、便所の窓から、確か、こっそりと抜き取っていたとか何とか。


 見るにうんざりした感のある瀬野氏が、一言。

 「聞いている方が恥ずかしい話ですな、もうノーコメントです」

 石本氏がここで話を制した。X氏も呆れている。

 「もうええ、部品の話は。荒れるだけじゃ。ましてアオチュウの話は、わしもよう知っているし、米河には何度か話のネタにしたけどな、ここではもう、やめんさい」


 17時15分を少し過ぎた。

 11月も下旬。もうすぐ冬が来る時期だ。外はもう、薄暗い。

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