第60話 真の目的

 レモンスさんが更におかしくなった……。どう見ても作戦失敗だよね?


 『彼の勝利とはすなわち、親への復讐だ。それが叶ったという事か? まさか!』


 え? 何?


 『君は囮に使われたんだ!』

 「まさか、我々をここにおびき寄せる為の誘導か!」


 リレイスタルさんとディルダスさんが同時に叫んだ。

 レモンスさんは、何も答えないけどニヤリとした。


 「え? どういう事?」

 「君がここに来ると言えば我々もここについて来ると睨んだ。今回満月の夜が君に声を掛けたが、そうでなければレモンスが声を掛け俺たちに知らせたのだろう。そうすれば、結果は同じ」

 『ここで戦闘をしている間に、街は大変な事になっているって寸法じゃないのか?』

 「え? じゃ今頃モンスターが街に向かっているの?」

 「それじゃ目立ちすぎるだろう」


 僕が驚いて言うと、ロメイトさんがそう返しレモンスさんを睨みつけた。


 『そうか! スライムだ! あれなら倒せば魔素酔いさせられる。小さいから夜のうちに移動させておけばなんとかなるだろう。予行練習はここではなく、街の方の事だったんだ!』

 「街にスライム!?」

 「何! しまった! そういう事か!」


 僕が叫ぶとディルダスさんは、色のついた狼煙を打ち上げた。赤色だ。


 「今更行っても遅いよ。使っていない倉庫にぶち込んであったんだ。今日、そこを開けるように言ってある」

 『まずいな。君は虚偽をしているからな』


 へ? 虚偽?


 『魔素酔いしたスライムをなんとか倒せたと言っただろう。ディルダス達もレモンスもそう思っているかもしれないが、実際は魔素酔いしたモンスターを倒せる者がいなければ、スライムとて倒せない』


 そうだった! どうしよう。


 『もしここにいる者しか倒せる者がいないならどうにもならんだろう。まあ倒せたとしても魔素を振りまくだけで、どうにもならないだろうけどな。どれくらいの数のスライムかわからないが、それこそ『女神の雷』出番ではないか?』


 でも街に行くのに時間がかかりすぎるよ。村に戻って街に行って……。


 『ここから直接街に行けばいい。道がないか聞いてみろ。ここがフェニモード家の土地なら街から来れる様になっているかもしれん』

 「そっか! ねえ、ここから街に行く道ってある?」


 僕が急にそんな事を聞くもんだから全員、驚いて僕を見た。


 「お前が行ってもどうにもならないだろう? スライムだが魔素酔いしているのだからな」


 僕が魔素酔いしたスライムに襲われた事を知らないジグルさんがそう言うと、他の知らない者達もうんうんと頷く。


 「そこに道が見えるだろう? あれが街に続く道だ。だが途中に大きな川があり、跳ね橋がかけてある。だがフェニモード家の者しか使う事が……って、行っても渡れんぞ!」


 ディルダスさんが指さした先を目指し、話している途中だけど僕は駆け出した。


 「俺達がついていきます。リトラ行くぞ」

 「OK!」

 『跳ね橋があるようだがどうする気だ? きっと我々では動かせないぞ』


 なんとかジャンプで越せないかな?


 『なるほど。片方が降りているのなら可能性はあるな。橋が見えてきた。よかったな。向こう側しか上がってない』


 つまり川幅を半分で飛び越えられるって事だよね。このまま走った勢いもつけてジャンプすれば行ける!


 『しかし思ったより君は足が速いのだな。彼らが追い付けていないではないか』


 この一年間逃げ回っていたおかげかもね。バフで強化されているし、だからモンスターの攻撃って受けた事ないんだ。


 『ほう。これなら一時間ぐらいで下れるのではないか?』


 いやそれは無理。この速さをずっと維持できるわけないでしょ。


 『下りだからなんとかなるだろう! 急げ!』


 無理言わないでよ!


 僕は、川の目の前まで来た。橋は馬車一台分通る幅があるが、こちら側からは橋の半分までしか行けない。半分の橋は上げてあった。


 「ジャンプ!」


 僕は橋を蹴った!

 向こう岸の橋を避けてジャンプ。でないと、橋に激突しちゃうからね。

 って……。


 『大丈夫か。見事に転がっているが……』

 「う……」


 ジャンプして向こう岸に渡れたけど、着地に失敗して思いっきり転がった。


 「いったぁ。ハイヒール!」

 『覚えていてよかったな。でなければ走れないところだった』

 「うん。ハイヒールって凄い」


 僕は立ち上がり振り返る。まだ向こう岸に二人の姿は見えない。


 街には、チェミンさんもいるだろうし、親に復讐する為に街のみんなまで巻き込むなんて!


 『そうだな。ここは恩を売っておかねばな!』

 「違うから! もうどうして、そういう発想なのさ」


 僕は、文句を言いながら街に向かってまた走り出した。

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