第59話 ベルの使者

 ど、どうしよう。


 『手はないこともないが、その前にベルの使者を取得しろ』


 これ本当にリレイスタルさんが作ったんじゃないんだね?


 『信じないなら仕方がないが、私の魔法は一度きりだ。彼が取得していれば、消えている。だがまだあり、ベルを使えているのだから一度では消えないのだろう』


 そっか。契約してもいいけどそれじゃこの魔法は消えない。魔法を使って僕が取得すれば、このベルの魔法が消えて使えるんだね!


 『たぶんな』


 やってみる!


 「マジックリカバリー」


 ――契約魔法『ベルの使者』を取得しました。


 ヨイドレイのベルから『ベルの使者』の魔法が消えた。そして、僕はその魔法を取得した。成功だ。



 【ベルの使者】レベル11

  ヨイドレイのベルを使用する事が出来る。

  ◆消費MP:110

  ◆MP回復:11%(使用する度発動)

 『呪い』

  ◆使用する度、憎悪増幅。



 『ベルは最終的に壊そうと思っていたが、MP回復アイテムとして使えそうだな』


 レモンスさんの両親への復讐心って呪いのせい?


 『増幅して抑えきれなくなったのだろうな。まあ副作用的な呪いだな』


 何のんきな事を言っているのさ。これって説得できないって事だろう?


 『止めるには呪いを解くしかないだろうが、解いたとしても増えた憎悪は消えんぞ?』


 それでも説得できる状態にはなる。その前に、このモンスターを何とかしないとね。洞窟に戻せるかな?


 「モンスターよ、攻撃をやめろ!」


 リーン……。

 モンスターがピタッと攻撃をやめた! 凄い効果だ。


 「なんだ。マルリード、何をした!?」


 ロメイトさんが、僕に振り向いて聞いた。というか、全員驚いてモンスターと僕を見比べている。


 「えっと。ベルを使用してみました」

 「馬鹿が! 危険な事をするな!」


 ディルダスさんに叱られた。


 『気にするな。ほれ、喧嘩させてやれ。作戦だろう?』


 洞窟に戻さないの?


 『それは、魔法陣を使ってやる為だろう?』


 そっか。

 リーン。


 「モンスター同士で戦え!」


 そういってベルを振ると凄い攻撃が繰り広げられる。大きなモンスターも小さなモンスターもごっちゃになって暴れ出した。まあモンスター同士が戦い始めただけど、恐ろしい風景だ。


 『爽快だな』

 「どこが!」

 「さすがマルリード。やる事が俺らと違う」


 そう言いながらリトラさんが、僕の傍に来た。


 「離せ!」


 レモンスさんは、ディルダスさんの命令で捕らえられていた。


 「貴様! 覚えておけよ!」


 もしかして、僕にも憎悪を持ってる?


 『かもな。何せ親に認められた相手だ。嫌いな両親だとはいえ、面白くないだろう』


 そっか。なるほど。


 『それよりリムーバルを飲ませてみろ。それで呪いは解けるんじゃないのか?』


 この状況じゃ、大人しく飲むとは思えないけど……。


 『では、呪いを解く薬と言って、ディルダスにでも渡しておけばよい。判断は彼らに任せるのが一番だ』


 そうだね。じゃ、ミルクを……あ、リル。

 そうだった。外に出したんだった。ミルクを貰えるのかと尻尾を振って待っている。

 先にあげよう。


 『君の優先順位は、リルが一番のようだな』


 うん。今回リルは、大活躍だったからね。


 『私も活躍しているだろうに』


 動機が不純な気もしないでもないけどね。いっつも騙されている気がする。


 『色々助言しているではないか。判断は自分ですればいい。行動は君の判断だ!』


 はいはい。


 「リル、ミルクだよ」

 「こんな時に、ごはんをやるのかよ」


 横でリトラさんが呆れて言った。


 『まあそう見えるというか、そうだな』


 う、うるさい!


 「で、今度は何しているわけ? それ自分用?」

 「これは、レモンスさん用」

 「はぁ?」

 「えっと、これをディルダスさんに渡してもらってもいい? 呪いを解く薬」


 リムーバルを手に見せると、リトラさんは唖然としている。


 『自分で渡せばいいだろうに』


 だって、あの人怖いんだもん。


 『情けない奴め』

 「わかった。サンキューな」


 リムーバルを受け取り、僕が頼んだ通りディルダスさんに渡してくれた。


 「大半のモンスターが倒されたとは言え、この量の魔素どうやって抜くんですか?」


 ロメイトさんが、ディルダスさんに聞いている。

 死んだモンスターの魔素も抜くんだ。


 「参ったなぁ。ここに放置できんしな」

 「かと言ってこの量を洞窟に運ぶのは、一人では無理だぞ」


 ディルダスさんが頭を抱えていると、ダリリンスさんも頭を抱えた。


 『もしかしたら洞窟内での方がよかったのか?』


 余計な事をした?

 はぁ。やっぱり洞窟に戻せばよかった。


 「くくく……あははは! 私の勝ちだ!」


 押さえつけられたままレモンスさんが笑い出した。この状況で勝ったって。モンスターの死体の事を言っているのかな?


 『何か嫌な予感がするな……』


 うん。僕も。

 ディルダスさん達は、どういう事だと顔を見合わせていた。

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