第51話 怪しい相手

 もうこれ、どうすればいいの。


 『内緒の事は知れたんだ。知りたい事を教えてやればいいだろう』


 うーむ。


 「エドラーラさんの娘さんとは、錬金術の講座知り合ったんです。それでたまたま今日、フェニックスの前で会っただけです」

 『色々すっ飛ばしてるな』


 いいんだよ! 正直に言ったらあれこれ聞かれるだろう。


 「まあマルリードがフェニックスに行くこともあるだろうが、その彼女はどうしてそこに?」

 「知りませんよ……」

 「ほう。では仲良しこよしの手つなぎは?」


 ロメイトさんの質問をごまかすと、ごまかせない質問をリトラさんがしてきた。さてどうしよう。


 「えっと……それは」

 「娘の結婚相手がスーレンという男なのだろう? フェニックスの従業員か? しかしエドラーラ家なら名前ぐらいは知っている者もいるほどの金持ちなのに、従業員と結婚させるのか?」


 なぜそこまで核心に迫っているのに従業員?


 「だから知りませんって。もう三人に関係ない話じゃないですか!」

 「そうよね。ところでマルリードは、そこに何を買いに行くつもりだったの?」

 「え? あ、スライムの核を取る道具を……」

 「では行きましょう」


 素直に答えたらミューリィさんが僕の手を取り引っ張った。


 「え? あの……今日でなくてもというか、店閉まっているんじゃありませんか?」

 「普通はね。でもこの村は、大抵の者が冒険者だから24時間営業のところも多いのよ。フェニックスもそう。それ買ってあげるわ」

 「え? いや結構です」

 「買ってあげる約束したでしょう」

 「約束って……」


 それ一方的にであって。


 『いいではないか。ワイロではなく好意でだろう?』


 今それは、ワイロに変わったんだよ。わかって言っているよね?

 なんでこんなに興味津々なんだ。


 『たぶんフェニックスが関係しているからではないか? 今回の件と何か関係あるかもと思ったのかもな』


 え? それで? 何もないのになぁもう。


 フェニックスは、ミューリィさんが言う通り夜だけどやっていた。


 「いらっしゃい。おや満月の夜の皆さん、こんばんは」

 「おじゃまする」

 「こっちよ、マルリード」


 僕は、ミューリィさんに連れられて採取コーナーに来た。


 「あまり高いのを買うと恐縮して使いづらいでしょう。これなんかどう?」


 ミューリィさんが手に取ったのは、筒の片方に袋がついているアイテム。どうやって使うのだろう?


 「これはね、スライムに直接差し込むのよ。魔力を流し込むと核だけ採取して、袋の中に入れてくれるの。すごいでしょう」

 「それ差すだけで倒せるから魔力を流しながら差すといいぜ。ところでどいつ?」


 リトラさんがボソッと聞いてきた。従業員は三人程いた。でも髭を生やした人物はいない。


 「本当に知らないんだって。ただ、髭を生やしたレモンスさん似の人みたいだよ」

 「ふーん。髭ね」

 「これでいいかしら?」

 「え、はい」


 って、銀貨一枚!?


 『それが一番安いみたいだな。まあマジックアイテムなのだから最低でもそれぐらいはするだろう。よかったな。お金貯めないと買えないところだった』


 複雑な気分。


 「これくださる」

 「はい。プレゼントですか? リボンはかけますか?」


 ちらっと従業員が僕を見ていった。


 「そうね」

 「いりませんから!」

 「なあ、ここに髭を生やした従業員っている?」


 何聞いてるの!?


 「ちょ……リトラさん」

 「当店では髭を生やした者はおりませんが、何かございましたでしょうか?」

 「いやなんでもない。あ、気にしないで」

 『エドラーラの耳に入ったらますますやばいな。賠償金か?』


 そんなお金ないから!


 『錬金術だな』


 すぐそれなんだから。


 「はい。ごめんね。リトラって気になったらすぐに行動しちゃうから」


 それわかっていて、ここに来たんだよね……。


 「ありがとうございました」


 僕たちは、フェニックスの建物を後にした。


 「もうリトラさん! あの時話を聞いていたなら縁談を隠していたの知ってますよね? 相手が気が付いたらどうするんですか!」

 「いやだってさ、あそこまで憤っていたのに相手がスーレンって奴だと知れていると知って慌てていただろう? 大丈夫なのか? 悪いやつじゃないのか? ここの人じゃないみたいだし。俺も髭生やした奴見た事ないしな」

 「だからってリトラさんには関係ない事じゃないですか!」

 「マルリード。話がある」


 とロメイトさんが真顔で言った。すると二人も真顔で頷く。


 『どうやら彼らの中で、スーレンが怪しいとなったみたいだな』


 どうして? というか、なぜこれだけで怪しいと思うんだ。


 『私も思っているが? なぜそう思わないか逆に不思議だ』


 ……悪かったね、頭が弱くて!

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