第50話 これは彼女の作戦ですか?

 狭い部屋の中を元気にリルは駆け回る。

 本当に元気になったなぁ。


 『これからは、運動もさせないとだめだろうから何か対策を取らないとだめだろうな。君から離れ戻らなくなったらマジックリカバリーの魔法が使えなくなるから、リルの場所の把握ができるアイテムが必要なのではないか?』


 そう言って、錬金術をさせようとしている? まあ一理あるけど、どうしようかなぁ。


 『作るなら協力するぞ』


 はいはい。ありがとう。


 トントントン。


 「ロロリーです」

 「え? はい。リルおいで」


 僕が呼ぶとリルは駆け寄ってくる。言う事は聞くんだよね。

 リルを抱っこしてドアを開けた。


 「こんばんは。あの、エドラーラさんがお見えです」

 「うん? エドラーラさん?」


 あ、チェミンさんか。

 リルをポーチに入れ、ロロリーさんと一緒に向かう。


 「ロロリーさん。今日は残業?」

 「うん。ちょうど帰るところだったの。そこに来たから呼びに……」

 「貴様は! もう違う奴に手を出しているのか!」

 「うん? え!」


 声の主は、チェミンさんのお父さんだった。訪ねてきたのってそっち? というか僕に突進してくるんだけど。


 「貴様のせいで娘の縁談が破談になった。どうしてくれるんだ!」


 僕の両腕をギュッと掴みチェミンさんのお父さんは、ぶんぶんと僕を振りながらついでに唾を飛ばしながら大声を張り上げた。


 「あの痛いです。って、言っている事がちょっとわかんないですけど」

 「この女たらしめが! 手をつないで村の中をデートしていたそうではないか! それを見られていたんだ!」

 「え? 手を……あぁ、あれは」

 「何? 本当なのか!」

 「ちょっとリルが酔うから振らないで! 誤解ですから。ちゃんと彼女に聞いてください」

 「聞いたさ。顔を赤らめ照れておったわ!」

 「え? なんで!」

 『結構したたかだな。手を繋いだというのは事実だからな』

 「おい。あいつ……マルリードってやつだろう?」

 「いやいやいや手を引っ張っただけで……」


 げ。また変な噂がたっちゃうよ。

 僕の腕を掴むチェミンさんのお父さんの手をとり、クルっと向きを変えさせると、外へと背中を押す。


 「何をする!」

 「だから誤解ですから。外で話しましょう」


 もうなんでこうなるんだ。

 外に連れ出してもまだ憤慨したままで、どうする気だと叫んでる。


 「だから誤解なんですってば。護衛の人に聞いてくださいよ。移動させるのに手を引っ張っただけで、デートなんてしてませんから!」

 「何! 本当なのだな? ではさっきの子が恋人か!」

 「どうしてそうなるんだ。彼女は、僕を呼びに来てくれたギルド職員ですよ。もう落ち着いてください」

 「落ち着けるか!」

 「わかりました。ではスーレンさんには僕からちゃんと説明しますから」


 そういうと、静かになった。というか、凄く驚いた顔をしている。なんだ?


 「な、なぜ。名前を知っている?」

 「え? チェミンさんから聞きましたよ。フェニックスに乗り込むって言うから止めたんです」

 「なんだと! あれほど、内緒だと言ったのに! いいか! 誰にもいうなよ!」


 目の前に止めてあった馬車に慌てて乗って去って行く。一体どうなってるの?


 『口が軽い娘を持つと大変のようだな。だから護衛も必死で止めていたのか』


 って、内緒なのになんで話しちゃうかな?


 『結婚が嫌だったのだろう。だったら約束を破ればいいだけだ』


 いや破談になるだけですまなかったらどうするの?


 『ところでなぜ内密に事を進めていたのだ。あそこまで困惑するほど隠さなくてはいけない相手なのか?』


 知らないよ。


 「なあ。三角関係?」

 「ひゃ」


 リレイスタルさんと会話していたら、肩に手をまわして顔を覗き込みながらリトラさんが聞いてきた。


 「違いますから。ちょっと誤解されて。離れてください」

 「あの方、お金持ちの人よね。どなた?」


 ミューリィさんも居たんだ。まあ当たり前か。


 「エドラーラさんです」

 「へえ。それなりの金持ちだな。どういう知り合い?」


 ロメイトさんが、去って行った馬車を見送りながら聞いてきた。みんな興味津々みたいだよ。


 「べ、別にいいじゃないですか……」

 「相談に乗ってやるって言ってるんだって」


 とまた肩に手をかけてリトラさんが言う。それを外しながら僕は返す。


 「大丈夫です。自分で何とかしますので」

 「ところで先ほどフェニックスっと言っていたが」


 ロメイトさんも結構しつこい。うん? フェニックス?


 「今の話、聞いていたんですか?」

 「代表として聞いていた」


 にやっとしてリトラさんがいう。


 『こりゃもう、内緒ではなくなりそうだな。チェミンに結婚を迫られたら断り切れんな』


 あのね! それだけは絶対にないから。さっきの見たでしょう。


 「で? どうなんだ?」

 「だからそれはないって……あ、間違った」

 「「「間違った?」」」


 満月の夜の三人は、何をという顔で聞き返してきたのだった。

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