第8話 振り回されただけだった
だいたい経緯はわかったけど、さてどうしようか。
まずは、泣き止んで欲しいよな。
「あのさ、君に死ねって言ったわけじゃないと思うけど。諦めさせる為に出来ない事を言ったんだと思う」
「………」
冒険者の事を何も知らない彼女に、凄い事を言っていたけどちゃんと父親も理解していたのだろうか? 万が一の事を。
「チェミン……」
彼女を呼ぶ声に振り返れば、三人の男が立っていた。たぶん真ん中のおじさんが名を呼んだんだろう。身なりは冒険者ではないし。
「お父さん……」
「諦めろ。自分では取りに行けなかったんだろう」
はぁ。やっぱりそういう事か。
「チェミンさんのお父さんですよね、こんな小細工したの」
「!」
「小細工?」
鼻をすすりながらチェミンさんが聞いた。
「そもそもあの場所へなんて君を行かせる気なんてなかったって事。あの冒険者から譲ってもらって君が持って行けば、それが貰ったものだからダメだと言うつもりだったんだろう」
「え? そうなの?」
はぁ。と、小さくため息をつく父親。
「なぜ頑なに拒む。いい縁談ではないか」
うん? 縁談?
「もしかして結婚するのが嫌で錬金術師になろうとしていたの!?」
「だって、嫌だったから! 自分で稼げるなら結婚しなくてもいいかと思って。家を出る覚悟だったのに」
「まさか本当に冒険者になって簡易錬金を取得してくるとは思わなかった。私は、チェミンの幸せを考えて言ってるんだ」
「いや!」
ってまた僕の後ろに隠れる!
盾にしないでくれるかな?
「そうだ。君にそれをあげよう。だから説得してくれないか?」
「マルリードさんは、私の味方よね?」
僕をこれ以上巻き込まないでほしい。
「君の事は調べさせてもらったよ。孤児院の出だそうだね。私達は君達と違って、かなりの額の税金を国に納めている。君達が冒険者として報奨金としてもらっているのは、そこからでているんだよ。だから……いた!」
僕は、つい緑魔石を投げつけていた。
「だから偉いっていうのか! じゃ、報奨金はいらないからお前達を守らないって言ったらどうする!」
「何? 小僧! 一端の事を言っておるが、最低ランクなのだろう? 報奨金を手に入れるぐらいになってから言え!」
「あぁ、そうかよ! お金しか頭に無いくせによくいうよ! チェミンさんが変なやつらと一緒に行ったらどうしようとか思わなかったかよ! さっきの奴らだって金を渡して、それを渡す様に言ったんだろうけど、彼女が持っていた短剣を奪おうとしていた。交換だって言ってな」
「なに! あいつら!」
はぁ。この親子ダメダメだ……。
「いいか、自分で稼ぐって大変な事なのだぞ。大人しく結婚すれば、何もせず暮らせる」
「嫌です! だいたいなぜ15歳も離れた30歳の人と結婚しなくては行けないの?」
「30歳!?」
政略結婚なのか? お嬢様も大変だなぁ。
「マルリードさん、助けて!」
って言われてもなぁ。
「本当に彼女の事を思って言った言葉だったんですか?」
「当たり前だ」
「ではなぜ、錬金術に関係した事ではなく、危険な冒険者のを条件にしたんです。今回僕を選んだからいいけど、中には悪さをする奴もいる。彼女に一生消えない傷を残したかもしれないんですよ? チェミンさんは、あなたがここに来る前まで、父親に死にに行けと言われたと泣いていました。あなたがやった事は、そうとも取れる行為なんですけど、わかっていますか? まあ僕が偉そうに言う事ではないですが、本当に彼女の幸せを考えているのならこんな危険な条件出すべきじゃないと思います」
「………」
これで歩み寄ってくれないかなぁ。
せめて、錬金術の条件でやり直して、丸く収まってほしい。
「すまなかった。君の言う通りだ。向こうが怒りだしてな、焦っていた。わかった。チェミンの好きにするがいい。今回の縁談は断ろう」
「お父さん! 大好き!」
え? 何それ。
嬉しそうに父親に駆け寄るとチェミンさんは、父親に抱き着いた。
なんだんだ~。この親子は!
二人は、ぎゅっと抱きしめ合っていた。
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