第7話 欲していた理由

 男二人は、緑魔石りょくませきを手に立っていた。どうやら僕らの後を付けていたらしい。ここは、初心者の狩場。偶然に来るわけがない。

 赤髪の剣士が手の平に乗せた小さな緑色の石を見せていた。その隣には、杖を持った茶色い髪の男。武器から見て多分Cランクぐらいだと思う。


 「彼らが言っている事って本当? あれを手に入れたかったの?」


 チェミンさんが、こくんと頷いた。


 「お父さんには黙っていてあげるからさ。どうだ?」


 お父さん? やっぱり喧嘩して出て来たのか? それにしてはちょっと意味がわからないな。


 「あれ、何に使う気?」


 僕が質問すると、チェミンさんは軽く首を横に振った。

 うーん。父親にとって来いとでも言われたから知らないのか、違う理由で欲しいだけなのか。


 「お金がないようだからその腰に下げている短剣と交換でどうだ?」


 やっぱりずっと隠れて聞いていたんだな。


 「これはダメ!」

 「でもこれないと困るんじゃないの?」


 ずいっと一歩男が近づくと、チェミンさんは僕の後ろに隠れた。


 「そんな弱っちい男の後ろに隠れてもダメだって。自分で言っていただろう? 荷物持ちどころか自分がお荷物で、『神乱しんらん』を追放されたって」


 自分がお荷物ってそこまで言ってないけど。


 「神乱ってパーティー名?」

 「そうそう。お前が抜けた後、Aランクになったからな。パーティー名付けたようだぜ」


 僕が聞くとそう教えてくれた。

 Aランクパーティーからは、パーティー名を付けられる。それまでは、リーダー名で呼ばれるんだけど、僕が抜けた後にAランクに昇格って凄く広まってるなぁ。Aランクパーティーになったって聞いて、噂になるだろうとは思ったけど。

 冒険者にとってAランクは、目標だからね。


 「ほら大人しくよこせって!」


 魔法使いの男が手を伸ばして来た。


 「きゃ」

 「やめろ!」


 僕は二人の間に立った。


 「何か? やろうってか? だいたい無理だろうよ。Cランクの地区に行くなんてよ。俺達だってCランクだけど滅多に行かないぜ」

 「そうだけど、短剣は渡したくないって言ってるんだ。無理やり奪おうってするなんておかしいだろう」

 「はぁ? じゃ何か、ただでくれって言うのか?」

 「いらないって言ってるんだ。事情知ってるんだろう? 彼女は、自分で取りに行かないとダメなんだ」


 僕がそう言うと、二人は大笑いを始めた。笑いたい気持ちは凄くわかる。今の状況じゃどう考えても無理だもんね。


 「お前、そうとうバカだな。凄い腕の立つ奴がその女と一緒に行けばなんとかなるだろうけど、死にに行くようなもんだぜ」

 「あぁ、そうだね。その覚悟がないと行けないよね」


 僕はそう頷いて、チェミンさんに振り返る。彼女は、青ざめた顔つきで立っていた。たぶんやっと、自分が無謀な事をしようとしていたんだと自覚したのだろう。


 「うそ……。私、死にに行けって言われたの?」

 「え?」


 何急に。どういう事?


 「っち。いいや、ほれ!」


 となぜか、僕に緑魔石を渡して来た。


 「確かに渡したからな!」


 と意味が分からないけど、二人は去って行く。

 うーん。なんだこれ?


 「ううう……」


 って、チェミンさん泣いているし!


 「あ、あのさ。ほらこれ手に入ったし……」

 「いらない!」

 「あ、そうだね。取りに行かないといけないんだったね」


 って、この状況どうすればいいのさ。

 泣いている理由がわからないんだけど。


 「あ、あのさ、この際だから僕に泣いている理由話してくれないかな?」

 「お父さんが……」


 やっぱり父親が関係しているのか。


 「条件として取りに行けって」


 うん? 条件?


 「冒険者になるのに?」


 違うとチェミンさんは、首を横に振った。


 「錬金術師になるのに……」

 「はぁ? 君がなりたかったのって錬金術師だったの?」


 チェミンさんは、こくんと頷く。

 だからあんなに頑張っていたのか。簡易錬金を取得する為に冒険者になった。だけど取得しても父親は許してくれず、緑魔石を取ってこれたら認めると言ったのか? なんていう条件を出すんだ。いや出来ないと思って言ったんだろうな。

 だったらさっきの二人って父親が雇ったやつら? 僕はやっぱり親子げんかに巻き込まれたの~?

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