ポリコレヒーローはどんな小さな悪も見逃なさい!

ちびまるフォイ

どんな小さな悪もけして見逃さない!

「フハハハ!! 人間どもよ覚悟するがいい!

 この地球はすべて我々の手に落ちたのだ!」


空には暗雲が立ち込め、人々は失意の底へ沈む。

けれど、けして諦めることはない。


人々の心にはいつも助けてくれるヒーローの存在があるからだ。


「たすけて!! ポリコレヒーロー!!」


「な、なにぃ!?」


マントをたなびかせ、全身タイツのヒーローが閃光とともに現れる。


「ポリコレヒーロー見参!!」


悪役はその恐ろしいほど強大なパワーに圧倒される。

およそ自分たちの力すべてを束ねてもかすり傷ひとつ与えられないだろう。


「こっ……こんなやつが地球にいたなんて……!」


「さぁ、覚悟はいいな?」


ポリコレヒーローはボキボキと拳を握り始める。


「ま、待て! 話をすればわかる!」


「ポリコレパーーンチッ!!!」


ポリコレヒーローの渾身の右ストレートが炸裂した。

激しい衝撃波で悪役の後ろにあった小学校の屋根が吹き飛んだ。


唐突に青空教室へと早変わりしたことに、

出席をとっていただけの担任はポカンとしている。


ポリコレーヒーローは空に浮かびながら眼下を指差す。


「そこの担任! ポリコレヴィランだな!!」


「わ、私がですか……?」


「私の耳はどんな少数派のポリコレも見逃さない!」


「私はただ出席をとっていただけですよ」


「いいや! だったらどうして男子を先に出席を取った!」


「それは単に出席番号が……」


「男子を先にしようという考えが働いている!!

 ポリコレェェェ……アターーック!!!」


ポリコレーヒーローが言い訳をする悪をくじいた。


「そしてお前!! そこの副担任!!」


「ひ、ひぃぃ!」


「なぜ貴様は男子をくん、女子をちゃん付けするのだ!」


「あわ、あわわわ……。許しください!

 今度からは男子も女子も"さん"で共通にしますぅ!」


「このっ……ばかやろうーー!!」


ふたたびポリコレーヒーローが悪をくじいた。


「男子と女子で分けられないこともあるだろう!!

 これからはすべて"くんちゃんさん"で統一だ!!」


「ごめんなさいぃ! ポリコレヒーローくんちゃんさん!」


ポリコレヒーローにより世界の罪深き悪がまたふたつ消えた。

悪役はどのタイミングで声をかけるか悩んでいた。


「あ、あのぅ……」


「なんだお前は」


「この世界を征服させてもらってます……。

 失礼ですけど、我々は倒さなくてもよろしいんですか?」


「私の名前はポリコレヒーロー。

 無益な殺生はしない。この拳は悪のためにふるわれる」


「いや世界征服しちゃってるんですけど……。

 それはもういいんですか?」


「私の名前はポリコレヒーロー。

 この拳は悪のためだけにふるわれる」


「あダメだ。特定の選択肢にしないと

 延々とループする村人の会話のやつだ」


「む!? ポリコレーダーが反応している!! いかなくては!!」


「え、行っちゃうの!?」


ポリコレヒーローはさっそうと飛び去ってしまった。

今にもまさに世界を破滅させようとする悪役をそのままにして。


「ええ……どうしよう」


「ボスどうします? 俺らヒーローに備えて待機してましたけど」


「どうしようか……」


「これ以上待機していると残業代出ちゃいますよ」

「それ困るなぁ」


世界の命運をかけた激突のために準備していただけに困ってしまう。

手の混んだ夕食をこしらえたあとの「今日は徹夜」の一報くらい困る。


「ボス、敵がこっちを向いてくれないのは切ないっすけど

 首尾よく世界征服を推し進められるならいいんじゃないっすか」


「うん……でも世界征服したあとのこと、なんも考えてないんだよね」


「大学合格した後の受験生みたいなこと言わんでください」


「なんか達成感ないなぁ……」


「世界征服していたらさすがにヒーローも無視できないでしょう。そのうち来ますって」


「そんな野良猫みたいな感じで来るもんなの?」


悪役を筆頭にして魔物たちはおそるべき世界征服を実行した。


地球のあらゆる場所に監視塔を立てて人間を厳しく管理。

無慈悲かつ無差別に残虐な行為を繰り返す。


自然は枯れ、動物は死に、人間たちも次々倒れてゆく。


「フハハハ! もはやこの地球は我々のものだーー!!」


悪役が勝ち誇って勝利の高笑いをしたとき、

雲を裂いてついにヒーローがふたたびやってきた。


「ポリコレヒーロー、見参!!」


「来たかヒーロー。完全にスルーされたのかと

 ちょっぴりドキドキしていたぞ!

 だがもう遅い。我らは貴様と対抗できるだけの力を……」


「ポリコレヒーロー、ただいま見参!!」


「ポリコレヒーロー、登場!」


「ポリコレヒーロー☆到着!!!」



「いやちょっ……待っ……!」



「ポリコレヒーローをお呼びかな?」


「ポリコレヒーロー が あらわれた!」


「ポリコレヒーロー・アッテンド!!」


「ポリコレンジャー、ここに誕生!」


「ハイどうも~~ポリコレヒーローです」


「ポリコレヒーロー、オンステージ!!」


一瞬にして悪役の周りはポリコレヒーロー過密地帯となった。

ポリコレヒーローたちはお互いを見て驚いた。


「私はポリコレヒーロー。

 ポリコレーダーに反応があったので来たんだ」


「私も」「俺も」「僕も」「ミーも」


「待て待て。なにがポリコレ"ヒーロー"だ。

 ヒーローなんて言葉は男性特有のものだ。

 私はその差別悪を消すためにきたんだ!!」


「この服装は有色人種を差別する悪よ!

 その悪を私はくじくために来たの!」


「そもそもヒーローが圧倒的な力で

 悪を正すなんてのは力による支配と同じだ!

 平等な世界を実現するために私は来た!」


「私はこの世にはびこるあらゆる過去の遺物を

 ポリコレ制裁で断滅するために来た!」


「そもそもマントの長さが平等じゃない!」

「その髪型はヒーロー像に誤解を与える!」

「同じヒーローなのに言葉遣いが不統一!」



「こうなったら! 徹底的に差別をなくしてやる!!」


ポリコレヒーローによる史上最大の戦いが始まった。

その戦いが終わる時、世界には差別が消えるだろう。



「ボス。もう勝手に世界征服やっときやしょう」


「うん、そうだね……誰も見てないし……」


一方、悪役はその激しい戦いの裏で静かに世界征服を続けるのだった!!

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