第六話 走行テストをしてみよう


「なるほどなユウノスケとシバと……アオイだったか、お前さんら異世界から来たのか…………」


「別に隠してたわけじゃないけど実は俺達、異世界から来たんです」


「むぅ……なんかすまん」


「いや別に謝るこたぁねぇよ、むしろこっちが礼を言いたいくらいだ。ガチャポンプにしろ、これにしろこんな面白ぇもんを教えてくれたんだからよぉ、これからよろしく頼むぜぇ?」




 ガリアスは優之介達の話を聞くと神妙な顔をして考え事をしていたが、数秒後にはけろっとした様子で今回生産した品物の話題を優之介達に振った。




「そんで、その面白ぇもんを組み込んだ台車を用意して試しに転がしてみたんだが、組み込んでねぇのと組み込んだのじゃ、動きが比にならなかったってもんだ」


「まぁ、具体的にどのくらいでしょうか?」


「動いた距離に三倍近い差ができたな。まぁ目で見た方が早ぇだろ、ついてきな」




 ソフィーリアは効果の違いが気になったのか、ガリアスにそんな質問をした。ガリアスはいつもの感じで堂々としているが、話し相手が一国の王女様であることを認識しているのか? 


 ガリアスは自分についてくるよう一行に言うので一行はガリアスの後ろについて行く形で工房を後にした。






――――――――――――――――――――






 ガリアスに連れられて一行がたどり着いた場所は工房の裏庭だった。そこには従来の製法で生産された台車とベアリングが新たに組み付かれた台車、サスペッションが組み付けられた台車、ステアリング・タイロッドが組み付けられた台車、ベアリング、サスペッション、ステアリング・タイロッドの全てが取り付けられた台車が置いてあった。




「ここは俺の工房の裏庭だ、それぞれの有無の差を見比べる為に複数の台車を用意してみた。まずはそっちの金髪の別嬪さんが気になっていたベアリングから見比べてみようか」




 ガリアスはそう言うと手作りの坂の上に何もついていない台車と、ベアリングが組み付いた台車を並べて同時にスタートできるようにつっかえ棒をして発進準備完了をさせた。




「それじゃあ行くぜ? 三、二、一、……」




 ガコン! と言う音と共に二台の台車が下り坂を走り出した。最初はどちらも同じ速度で走っていたが、ベアリングが組み付いた台車の方が何もない台車よりも数倍の速さで加速し、移動距離も数倍の距離を走った。何もついていない台車とは桁違いの性能にソフィーリア達、イェクムオラム組は目を丸くして驚いている。




「わ、わ! 凄いですわ!!」


「速さも滑らかさも比になりませんね……」


「これなら馬車を引く馬にかかる負担も減らしてやれるな」


「ユウノスケさん、お義兄さん、これを商会で売らせてください!!」


「レミィ、気が早いよ……」




 イェクムオラム組がベアリング実装台車を押したり引いたりして滑らかさを実感している最中、レミリアはもう既にベアリングを商品展開しようと画策しているようだ。優之介が「気が早い」と落ち着かせるが、レミリアの興奮は収まらないようだ。




「レミリアの嬢ちゃん、ユウノスケの言う通りだぜ? 次はステアリング・タイロッドの性能を見てもらう。台車についた紐を引っ張りながら自由に曲がってみな、これまでのヤツとは旋回性能が段違いだ」




 今度はステアリング・タイロッドの性能実験だ。レミリアはガリアスに言われた通り、ステアリング・タイロッドが組み付けられた台車を引っ張って自由に歩き回ってみた。




「これも凄いです! まるで自然と付いてくるかのような感覚です!!」




 勿論、ステアリング・タイロッドがあるのとないのでは旋回性能に大きな違いがあった。ソフィーリアはピンと来ないらしいが、タマキとクラウディアは「車輪の摩耗が遅くなる」「馬の負担が大きく減るな」等とそれぞれ興味、関心を抱いている様子だ。クラウディアは騎士団の副団長だからか、馬に掛かる負担のことばかり考えている模様。


 最後はサスペッションの比較実験だ。実験方法はサスペッションを組み付けた台車と、何も組み付いてない台車にデコボコな道を走らせるのだが、サスペッションありの台車はタマキに、サスペッションなしの台車はクラウディアに乗ってもらい直線方向に走ってみた。




「……!?凄いです! 揺れが全く感じないわけではありませんが、かなり衝撃が吸収されています。なんて乗り心地の良い揺れなんでしょう♪」


「あだっ!?ぐっ……! う゛っ!?痛い! 痛い痛い止めてくれ!!」




 タマキが乗っている台車が受ける衝撃は心地良い揺れに緩和され、乗り手の気分を心地良いものにしてくれている一方、クラウディアが乗る台車は受ける衝撃をそっくりそのまま乗り手に伝えてしまうので、乗り心地は最悪だった。


 試運転が終わったのでクラウディアは馬車から降りたのは良いが、走行中の縦揺れが痛かったのかお尻に手を当てて身悶えていた。銀髪碧眼で超絶美人な女性騎士のレアな姿を見ることができた斬波は笑いを堪え、ガリアスは遠い目で空を見上げ、優之介と他の女性陣は苦笑いしていた。




「ぷっくっくくくく……」


「俺の近衛騎士のイメージがだんだん遠くなっちまうなぁ……」


「くっ、シバぁ……この責任は必ず取ってもらうぞ…………!」


「クラウ様、押してダメなら引いてみるのも一手かと思います。それよりもベアリング、ステアリング・タイロッド、サスペッションなるものの性能は素晴らしいですね、王城が所有する馬車の全てに取り付けてもらいたいくらいです」


「タマキの言う通りですわ。工房主さん、早速で申し訳ないのだけれど、王城が所有する馬車にこれらの製品を取り付けて欲しいのですが、お願いできませんか?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 『王城』って……」




 今回開発した製品の性能を理解したタマキとソフィーリアは、ガリアスに製品の発注を依頼しようとするが、ガリアスは度々聞こえる「王城」と言う単語に対し、不思議そうな表情で待ったをかける。




「あ、申し遅れましたわ。私はアースカイ王国第一王女のソフィーリア・レイ・アースカイと申します。以後、お見知りおきを」


「ソフィーリア殿下専属メイドのタマキです」


「王女!?こ、これは大変失礼しました! ご無礼をお許し下さいっ!!」


「そうかしこまらないでください、これからもお世話になることがあると思いますがよろしくお願いしますね?」


「と、とんでもねぇ! 光栄です!!」




 ソフィーリアが王女だと知ったガリアスはいつも通りの堂々した態度を一変させ、急に畏まってしまった。彼女は「気楽にしてください」と言うが、ガリアスは畏まったまま固まってしまい話が進まなくなってしまったので、優之介と斬波とレミリアがフォローに入ってようやくガリアスはいつもの落ち着きを取り戻すことができた。




「はぁ、はぁ……。メイドが仕えているからどこかの貴族令嬢かと思ってたが、まさか一国の王女だったなんてな。おめぇら最近とんでもねぇのを連れてくるよな…………」


「あははは……、まぁ成り行きで」


「良かれと思って」


「クラウ様がいらっしゃったのだからソフィー様もいらっしゃいますよ」




 王女様の登場ですっかり脱力してしまったガリアスだが、まだ話は終わっていない。タイミングを見計らってソフィーリアが再び製品発注の話を持ちかけた。




「あの~、それでこちらの製品は王城に卸して頂けるのでしょうか?」


「俺としてはそれは光栄なことですが~……「ちょっと待った」」




 しかし、誰かがガリアスの言葉を遮って待ったをかけた。ソフィーリアとガリアスは声がした方を振り向くとそこには理音が掌を前に突き出して立っていた。




「それ、規格通ってる?」


「「「「あ…………」」」」


「「「「……規格?」」」」


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