第四話 追っかけ王女、ソフィーリア


「え、ソフィー様!?」


「な、何でここにソフィーが? それにその格好はどうしたの?」




 金髪美少女と、少し疲れたような表情をしたメイドの正体はソフィーリアとタマキだった。メイドのタマキはともかく、王城から公務でもない限り外出することのないソフィーリアがここ安心亭にいる事に驚きを隠せない優之介とレミリアはただ固まることしかできなかった。シャンリーとコネリーは「え、誰?」みたいな顔をしている。




「えっと、こちらのお宿に空き部屋はございますか?」


「えっ、えぇぇあ、ありますね。二人部屋が二つ、三人部屋が一つ、空いてます」




 皆が固まっているのよそにソフィーリアはしれっと空き部屋の確認をする。安心亭に泊まるつもりなのか?




「それじゃあその部屋を全てお借りしますわ♪ こちらが代金です、お釣りは不要ですわ」




 ソフィーリアは空き部屋を全て埋めると宿泊料金としてカウンターにドサッと袋を置いた。コネリーが恐る恐る中身を確認すると、袋の中身は金貨が数十枚入っていた。


 大金を目の前にコネリーはもう既にふらふらしていたが頑張って宿泊の手続きを全て完了させた後、優之介とレミリアに金髪美少女はいったい誰なのかを聞いてきた。




「ゆ、ユウノスケさんレミリアさん、こちらのとんでもない美人はどこかの貴族様のご令嬢ですか?」


「あ、コネリーは初めて会うんだっけ? 紹介するよ。コネリー、シャンリーさん、こちらはソフィーリア・レイ・アースカイ。この国の王女様なんだけど……」


「ひっ……!?」


「まぁ、最後にお姿を見たときは小さかったのに……」


「ソフィー、こちらの二人は宿の看板娘のコネリーと、そのお母さんのシャンリーさんだよ」


「ソフィーリア・レイ・アースカイと申します、しばらくの間お世話になりますね♪」


「お、王女様……」―バタン!


「これはこれはご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、精一杯務めさせていただきます」




 大金を惜し気もなく支払う、気品溢れる金髪美少女の正体が自国の王女様だとわかったコネリーはその場で倒れ、シャンリーは深々と頭を下げてソフィーリアを迎えるのだった。




「はい、よろしくお願いしますね♪ シャンリーさんでよろしかったかしら? 娘さんが……」


「コネリーったら……、娘が申し訳ありません…………」






――――――――――――――――――――






「まぁ、シバ様がそのような事を?」




 ソフィーリアとタマキがチェックインを済ませると今度は優之介、レミリア、ソフィーリア、タマキの四人で卓を囲んでお茶を飲んでいた。


 優之介とレミリアは今現在、斬波とクラウディアがいない事を疑問に思ったソフィーリアに何があったのかを説明し終えたところだった。




「孤児でも親の顔を知ってるものだと思ってましたから、シバ様のお話を聞くと心が痛みますわ」


「私の実家も裕福ではありませんでしたが、家族の温もりでとても幸せでした。シバ様のお話を聞いてしまいますと、親に甘えられる私はとても幸せ者だったと自覚できます」


「ま、まぁ斬波さんの事は置いといてさ、ソフィーとタマキさんは何でここに来たの?」


「クラウの手紙を読んだからですわ♪」




 優之介がソフィーリアに対し、安心亭を訪ねた理由を聞くと彼女はそう答えた。




「手紙には貴方達の活躍と、クラウがシバ様に結婚を申し込む事を宣言した旨と、王城に戻る前にティユールの街に向かう事が綴られていました。手紙を読んだ私は居ても立っても居られず、是非ユウノスケ様にお話を聞かなければと思ってここに来ましたの♪ ドラゴンを討伐なさるなんて凄いですわ!!」


「あ、ありがとう……?」




 ソフィーリアは優之介の両手を握り締め、目をキラキラさせている。自分の事を褒めてくれているのだろうと思うのだが、アクションが大げさなこともあって優之介はどう返したらいいか困惑してしまう。




「おかげさまで私やアオイ様達は疲れました」


「す、すみません……?」




 元気なソフィーリアとは正反対にタマキは疲れきっている様子、王城からここに来るまでの道中で相当ソフィーリアに振り回されたようだ。




「ですが、私もユウノスケ様の武勇伝には興味があります。以前お渡しした剣は普通より少し良い程度の物だったと記憶しているのですが、ドラゴンを相手に機能したのですか?」


「スキルや魔法でカバーしてたんですけど正直キツかったです」




 それから優之介はソフィーリアとタマキにエルの大森林での出来事を説明した。亡霊盗賊団のこと、亡霊盗賊団が二体のワームドラゴンの封印を解いたこと、斬波はチート魔法、優之介は剣と魔法やスキルを駆使してワームドラゴンを倒したこと等を少し詳しめに語っていると、元々元気だったソフィーリアは頬を赤らめてうっとりとした表情で優之介を見つめ、疲れきっていたタマキは目をキラキラさせて優之介の話を聞き入っていた。そんな二人に優之介は苦笑いしながら時々レミリアの活躍も交えながら話を続けた。




「レミリア様も素晴らしいご活躍をなされたようですね、話を聞く限りそこらへんの冒険者より強くなっているようですし」


「お義兄さんに鍛えてもらっていますから♪」




 四人は時間を忘れて話を花を咲かせているうちに、辺りはもうすっかり夜になっていた。


 このまま夕食は安心亭の食堂で頂く事にした四人だが、斬波とクラウディアの帰りがないため少しだけ不安になっていた。




「斬波さんとクラウさん、帰り遅いなぁ……どこ行ったんだろ?」


「アオイ様達もお見えになられませんし……」




 ソフィーリア曰く、葵達もティユールの街に来ているらしい、部屋を複数確保したのはその為だ。因みに市之丞と直子はお留守番だそうだ。


 四人がどうしたものかと首を捻っていると、バタン! と扉が勢い良く開いたと思いきや……。




「おぉい、しっかりしろクラウ、葵、安心亭についたぞ。お前ら今日はもう寝ろ!」


「う~~~ん…………、シバぁ……」


「斬波くぅ~ん、一緒に寝よぉ~~?」




 斬波がぐでんぐでんになったクラウディアと葵を両脇に抱えて帰って来たのだった。


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