第二話 ランクアップ!


 優之介、斬波、レミリア、クラウディアの一行は冒険者ギルドに来ていた。ギルドのロビーはいつも賑やかで活気が溢れていたが、彼らの登場でざわついた。




「あ、あのー……そちらのとても美しい方は?」


「クラウディア・フォン・ローゼンだ」


「ひぃっ! お貴族様ぁ!?」


「あぁ? お前が呼んだんだろう?」


「ユウノスケさんとシバさんとレミリアさんのパーティでしたよね? よね!?」




 一行はギルドに到着すると先ずは伝言を置いていったエマの元を訪ねた。しかし、エマはクラウディアの存在にテンパっているようで会話が続かない。


 周りの冒険者もクラウディアの放つ高貴さに言葉を失っていた。




「おいエマ、話聞いてなかったのか? 騎士様、うちの受付嬢が失礼しました。おうユウノスケ、シバ、レミリア、騎士様をギルマスの部屋に案内してやってくれ。と言っても要件のメインはお前らだがな」


「あ、バロンさんお久しぶりです。ではそうさせてもらいますよ」


「行こうぜ、クラウ」


「ん? なんだ? エスコートしてくれないのか?」


「エスコートする場面じゃないだろ……」


「「…………」」




 やや混乱気味だったギルドのロビーはバロンの登場で落ち着きを取り戻した。バロンがこのギルドには欠かせない人物であることがよくわかる場面だ。しかし、斬波とクラウディアの会話を目の前で聞いてるバロン本人は冷や汗をかいているだろう。彼から見れば平民で冒険者の男子と、貴族で爵位持ちの女子の会話ではないからだ。


 様々な思考を巡らせているエマとバロンを尻目に優之介達一行は、カウンターの奥へと進んで行った。




―コンコンコン




「失礼します」


「やぁユウノスケ君、シバ君、レミリアさん。そしてお初にお目にかかりますクラウディア名誉子爵、私は冒険者ギルドティユール支部長のセドリックと申します。以後、お見知りおきを」


「堅ぇ挨拶だな、もっと楽にすればいいだろ」


「お義兄さん、クラウ様の身分を考えれば当然です……」


「いや、シバの言う通りです。楽にしてください」


「お気遣い痛み入ります」




 優之介が扉をノックして一行が入室するとセドリックが堅苦しい挨拶で迎えてくれた。ギルドマスターでさえもクラウディアの前ではこんなに謙るのだから、クラウディアはよほどの人物だということが改めて理解できる。


 三人がけのソファに優之介と斬波とレミリアが並んで座るが、クラウディアはソファの後ろで立ったままだ。身分が高い彼女を立たせたまま、話をするわけにはいくまいとセドリックが少しおろおろとしていると、クラウディアが斬波の左膝の上にちょんと座って「私はここで良いぞ♪」と言って斬波の首に腕を回した。




「えっと、本当によろしいのですか?」


「構いません、本題に入りましょう♪」―ぎゅっ♥


「俺も大丈夫だぞ」


「は、はぁ……。では今回君達を呼んだ理由は他でもない、ギルドの王都本部から手紙が来てね、君たちのランクアップ処理と報酬の受け渡しをして欲しいと書いてあったので今から行おうと思うんだが……」


「私の事は気にするな」―キリッ!


「そ、それじゃあこちらが今回の報酬だ」




 セドリックがテーブルに三つの皮袋を置いた、中身は金貨が十枚ずつ入っていた。優之介、斬波、レミリアはそれぞれ中身を確認して懐にしまった。




「そしてこっちは新しいギルドカードだ」




 セドリックはそう言って今度は銀色のカードを二枚と鉄のカード一枚をテーブルに並べた。


 銀のカードには優之介と斬波の名前とBの文字が、鉄のカードにはレミリアの名前とFの文字が刻まれていた。三人はそれぞれのカードを受け取るとまじまじと自分のギルドカードを見つめて感激していた。




「ユウノスケ君、シバ君、Bランクに昇格おめでとう。レミリアさんもFランクに昇格だ。これでここで渡せる報酬は以上だ。ここでは渡せない報酬が王都本部にあるから後でちゃんと王都本部に顔を出すようにね」


「「はい!」」「おう」




 セドリックの話をよそにギルドカードに注目する四人だったがセドリックがわざと咳払いをしたのでハッとなり、優之介と斬波とレミリアはギルドカードをしまって姿勢を正した。クラウディアは斬波に抱きついたままだ。




「そのなんだ、つかぬ事を伺うがシバ君、君はクラウディア名誉子爵とどのような関係なんだね?」




 斬波平民に抱きつくクラウディア貴族が珍しいのか、セドリックが関係を尋ねてきた。斬波はぼけーっとした表情で「お友達」と答えたが、クラウディアが怒ってそれを否定した。




「なんだと!?異性の友人相手にここまでするわけがないだろう! 私達は将来を誓い合った仲ではないか!!」


「待て待て、そこまで関係進んでないだろ……」


「だが、私が求婚した時に『気持ちは嬉しい』と言ってくれただろう!?」


「確かにそう言ったけど結婚はできないって言ったろ!?」


「嫌だ!」




 セドリックの質問で斬波と婚姻関係を築きたいクラウディアと、友人関係でいたい斬波の言い合いが始まってしまったので質問した本人は「何か余計な事を聞いてしまったかな?」とわたわたしている。せっかくのロマンスグレーがこの状況下ではただのおじちゃんだ。


 仕方ないので優之介とレミリアが斬波とクラウディアを引き剥がし、ぞれぞれ落ち着かせることで事態は収束しこの場は解散となった。


 しかし、セドリックの部屋から声が外に漏れていたらしくギルドのロビーは騒然としていたので一行は足早にギルドから出て行くのであった。

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