第二話 水浴び場でお風呂に入ったら妬まれた

「おいおい、井戸の水はバケツで汲めってか? いつの時代だよ……」




 優之介と斬波が滞在している宿、安心亭には風呂場がない代わりに水浴び場、そして掘られている井戸にはガチャポンプが設置されておらず、水を汲む際はバケツでわざわざ汲まなければならない。日本の水道の便利さを知っている野郎二人にとって、この環境は地獄である。


 この時、優之介と斬波は日本全国各地の水道局と、お風呂が当たり前の一般家庭に心から感謝した。


 今の段階では、ガチャポンプは存在するがこの宿には設置していないだけなのか、そもそもガチャポンプ自体が存在しないのかはわからないので、後でコネリーから聞いてみようと思う。




「魔法で水は生成できるから井戸は使わなくていいかなぁ~……」


「片手で水、片手で熱をイメージすればお湯ができそうだもんな……」




 優之介と斬波はとりあえず魔法でお湯ができないか少し試してみると、意外とあっさりお湯ができた。二人は魔力制御の練習がてら、空中に直径約二メートル程の水球ならぬ湯球を作り、その中に入って泳いだり寛いだりしてみた。




「ふぁ~気持ち良いぃ~~♪ やっぱりお風呂に入らないと疲れが落ないですよねぇ~♪」


「そうだなぁ~♪ でも、これじゃあお風呂というより温水プールだな」


「「ああぁ~~~♪」」


「ん? 優之介ぇお前、筋肉付いたか?」


「え? そうですかね?」


「少しずつだが、腹筋が割れてきていい身体になってきたぞ」


「そう言う斬波さんだって、元から腹筋割れてたけど更に仕上がってないですか?」


「いやいや、この程度じゃ仕上がった内に入らねぇぞぉ!」




 優之介と斬波は他愛もない会話をしながら十五分ほど湯球に浸かり、街で買った石鹸でわしゃわしゃと身体を洗って綺麗さっぱりしてから宿に戻った。


 優之介と斬波が宿に戻ると、コネリーがすごく不機嫌そうな態度でお出迎えしてくれた。何故だろう?




「……ずるい」


「「…………ずるい?」」


「ずるいです! 魔法でいきなりお湯を出したと思ったら、そのままお湯に浸かって寛ぐなんてぇ!!まるでお風呂に入っているようでした!」


「え、別に俺達は何も悪いことしてないよね?」


「魔法が使える人は自分でやりくりしてるんだろ?」


「そうですけど……、魔法で水じゃなくてお湯を出す人なんて初めてです! ずるいです! 私もお風呂に入ってみたいです!!」




 どうやらコネリーは優之介と斬波が擬似お風呂に入ってるところを遠目に見て、羨ましかったようだ。しまいには「後で私にも入れてください!」と言い出すので、野郎二人はどうしたものかと困っていると、コネリーに少し顔が似ている綺麗な女性が宿の奥から出てきた。おそらくコネリーの母親だろう。




「コネリー、お客様を困らせてはいけませんよ」


「お母さん!」


「「お母さん?」」


「初めまして、私はこの子の母でシャンリーと言います、お二人の事は娘から伺ってます。突然娘がご迷惑をおかけして申し訳ございません……」


「いえいえ、お気になさらず! お風呂は気持ち良いからコネリーさんの気持ちはわかりますよ」


「お風呂が贅沢品で、俺らがあんな事やってたらねだる気持ちも頷ける。ん? って事はコネリー、お前俺らの水浴び……、じゃなくて擬似風呂を覗いてたのか?」


「はうっ……/// ゆ、湯気が出てたからどうしたのかなって、そしたら……」


「俺達がお風呂みたいなのに入ってたと……」


「私もちらっと見ましたけど、気持ちよさそうでしたわね♪」




 シャンリーもコネリーと同様、優之介と斬波の擬似お風呂を見ていたようだ。


 シャンリーは笑顔で優之介と斬波を見つめ、コネリーも何かを訴えるかのような目をして野郎二人を見つめ、母娘は何も言ってこないが、「私も入ってみたい」と心の声が丸聞こえな圧力を優之介と斬波にかけてきた。


 優之介と斬波は戸惑いながらも、魔力制御の練習になるなからと言う理由(建前)でシャンリー母娘を擬似お風呂に入れてあげる約束をしてあげてしまった。約束をするとシャンリー母娘はとても嬉しそうにはしゃぐので、それを見た野郎二人は(喜んでくれるならまぁいっか)と和やかな気持ちになった。




「宿泊と食事は別料金ですけど、今回は無料で主人の料理を召し上がってくださいな、お風呂のお礼です♪」


「それじゃあご相伴にあずかります♪」


「ご馳走になるよ」




 優之介と斬波はテーブルに案内され、運び込まれた様々な料理に舌鼓を打っていると、厨房からバロンほどではないがガタイの良いおっさんが出てきて挨拶をしてくれた。


 このおっさんの名前はラコネスと言ってこの宿屋、安心亭の主人でコネリーのお父さんらしい。




「ユウノスケにシバだったか、よろしくな! 中から覗いたんだけどよ、お前さんらスゲェんだな」


「いやぁ、そんなことないですよ……」


「いや、普通の魔法使いじゃなかなかできねぇぞあんなの、自信持てよ! それよりもちと頼みがあんだけどよ、俺もあれに入ってみてぇんだけど頼まれてくれねぇか?」


「ま、まぁ大丈夫ですよ?」


「コネリーとシャンリーさんと約束した手前、断るわけにもいかんだろう」


「な!?あいつら自分だけ……」


「まぁまぁラコネスさんの分もちゃんとやりますから……」




 どうやらラコネスも、優之介と斬波の擬似お風呂を覗いて自分も入りたくなったらしく、結局安心亭の父、母、娘の三人を擬似お風呂に入れる事になった野郎二人だった。


 異世界でもお風呂は癒しのようです。


 

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