第四話 ジュノン様はスマホを弄りたいッ!!

「あの~俺達にあった要件は済みましたよね?」


「九神としての要件は済んだけど、私個人としてはまだ済んでいないよ! そのスマホとやらを手に取って見たいのだぁ!!」




 優之介と斬波がそろそろ戻りたいと言い出すと、ジュノンがスマホが見たいと待ったをかけて彼らを引き止めた為、野郎二人は帰れないでいた。優之介と斬波は絶賛困惑中だ。




「頼むぅ! 君達の住む日本の暮らしの風景をのぞき見たらもういてもたってもいられなくてさぁ!!」


「あぁはいはい! 俺ので良かったらどうぞ!!」


「ありがとう!!!」




 優之介は仕方なしに自分のスマホをジュノンに渡した。ジュノンは大喜びでくるくる小躍りしながらキラキラした目で、スマホを眺めていた。その様子は、ずっと欲しかったおもちゃをようやく親に買ってもらった、子供のように無邪気だった。




「はぁ……凄い! すごい! スゴイ! この小さな物体の中にいったいどれだけの部品が詰まっているんだ!?それにこの金属の種類! ウエルド、イェクムオラムでも様々な金属が流通してると思うが地球程ではないぞ?」


「お前がそれ程興奮するなら凄いんだろうけど、そろそろそのスマホとやらを返してやったらどうだ?」




 興奮するジュノンにウエルドはスマホを返すように諭した、個人情報の塊であるスマホは、本来安易に他人に見せてはいけないものなのである。




「あぁそうだったそうだった、それではん~っ、えい!」


「えっ!?」


「……!?」




 落ち着きを取り戻したジュノンは左手で優之介のスマホを持つと、ポン! と右手に優之介のスマホと全く同じ物を出現させてみた。今、ジュノンの両手にはスマホが一つずつ握られている状態である。


 その光景を見た優之介と斬波は「Oh,……ファンタジー」と呟く事で頭がいっぱいだった。




「ふむふむ、複製するのに思ったより神力を消費しなかったな。このスマホはイェクムオラムの材料でも作れそうだぞ♪」


「「(端末は作れても通信会社が運営する通信システムがなければただの箱なんだよなぁ)」」




 ジュノンはドヤ顔で胸を張るが、優之介と斬波が微妙な表情をした事でジュノンはドヤ顔から一気にむすっと不機嫌な表情になった。実に表情豊かな女神様である。




「何か文句でも言いたそうな顔してるね?」


「ジュノンさんが一番文句を言いたそうですけど……」


「当然! この私が神力で一から生成したスマホなんだから、きちんと使えるはずだ!」


「あのなジュノン、スマホは端末を作ればいいって問題じゃないんだ。材料と構造を完全再現してもソフトウェアをインストールしたり、通信を管理する通信会社が存在しなければそのスマホはただの液晶画面が光るだけの懐中電灯だ。最も、それは光りもしないと思うがな」


「な、何おおおおお!?」




 ジュノンは試しに複製したスマホの電源を入れてみるが、画面は真っ黒のままだった。


ジュノンは「何故だ何故だ!?」と、うちひしがれ、優之介と斬波は「あぁ、やっぱりか」と生暖かい目でジュノンを見守り、他の神様達は(いったい何がしたいのだろうか?)と不思議そうな目で見守る、何ともいたたまれない微妙な空気になってしまった。




「ユウノスケ君、シバ君……。しばらく君達のスマホを貸してくれないかい?」




 ジュノンは四つん這いの姿勢のまま、優之介と斬波にスマホを貸して欲しいとお願いしてきた。野郎二人の脳内にある神様のイメージは、目の前の残念美人女神のせいで完全に崩壊仕切っていた。




「ジュノンさん……なんでそんなにスマホに固執するんですか…………?」




 優之介の問に対して、ジュノンは肩をワナワナと震わせながら大きく息を吸い込み……。




「私はスマホを操作してみたいのだぁぁぁぁぁあああああああ!!」




 と思いっきり叫んだ。ジュノンのとんだ駄々っ子ぷりに他の神様達は全員一斉に溜息を吐き、呆れ返っていた。


 仕方がないので、優之介と斬波はスマホのロック機能を解除してジュノンにスマホを預け、近いうちにちゃんと返すように約束させた。




「ありがとう二人共! このお礼は弾ませてもらうよ!!それじゃあ私は研究したいからこれにて失礼する!!」




 ジュノンはそう言い残すとシュバッ! と消えてしまった。ツッコミを入れる対象がいきなり消えてしまったので、優之介と斬波は(俺達を引き止めておいて、自分は我先に帰るんかい)と心の中でツッコミを入れることしかできなかった。




「ごめんなさいね二人共、ジュノンは興味を持ったことにはとことんああなの。悪気は無いから許してあげて?」


「あはは……、人間にもいろいろあるように神様にもいろいろあるんですね…………」


「まったく、はた迷惑な神様なもんだ」




 ローリエが申し訳なさそうにしているが、優之介と斬波は気にしないでと彼女を慰めてあげた。


 そんな野郎二人にローリエはにっこり笑って、お別れの挨拶をしてくれた。 




「だいぶ長引いてしまったけど、もう時間ね。ユウノスケ君、シバ君、貴方達の冒険の無事を祈ります」


「ほっほっ、ではまたな。儂らに会いたければ教会に来て祈ると良い、君たちなら歓迎するぞい」




 残った八柱の神様達が優之介と斬波の無事を祈りながら温かい言葉で送ってくれた。


 やがて、優之介と斬波の視界は段々と真っ白になっていく……。




「あ、ありがとうございます。ジュノンさんからスマホを返してもらう時に来れれば!」


「頼まれた事はしっかりやってやんよ! また会おうぜ!!」




 優之介と斬波が神様達に別れを告げて気がついたときには元の祭壇の前に立っていた。野郎二人は神様達と交わした今までのやり取りが、まるで幻のような感覚に包まれていた。しかし、それは幻ではないと直ぐにわかった。




「あっ、スマホがない……」


「ジュノンに渡しただろ」


「そっか、夢じゃないんだ……」


「俺は夢であって欲しかったけどな、物理学的に説明できねぇ……」


「いいじゃないですか♪ ここはファンタジーな異世界で、魔法が使えて、科学的に証明できない事なんて日常茶飯事なんですから」


「そんな異世界で、俺らは科学で文化を発展させなきゃなんなくなるとはねぇ~……。でも、やることは変わらない、工場がよくやる改善活動と一緒だ。とりあえず宿屋に戻るぞぉ!!」


「え? あ、ちょっと待ってくださいよぉ~!!」




 優之介と斬波は教会でお祈り、もとい神様達とのやり取りを終えると軽い足取りで教会を出て、宿屋に戻って行った。


 元々自由に生きたかった野郎二人が、神々からの依頼を受け、この異世界を発展させる事になったのだが、彼らがどのように発展させるのかは神でも知らない。


 勇者として異世界に転移したが、自由を求め冒険者になった優之介と斬波の、フリーダムな異世界生活はまだまだ始まったばかりだ。 


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