第十三話 旅立つ時は胸を張って堂々と
優之介と斬波はタマキが用意してくれた防具を身にまとい、二人並んで王城の正門前に佇んでいた。
因みに今の時間は早朝である。野郎二人はわくわくし過ぎて早起きしてしまった結果、朝日が昇ってすらいない時間帯にもかかわらず、いざ出発するという運びとなった。
「そんじゃあ……、行くか!」
「そうですね!」
二人で足を揃えて門を潜ろうとした時、後ろから「お待ち下さい」と声がしたので振り向くとそこにはソフィーリアとタマキの姿があった。
「お見送りもさせてくださらないのですか?」
「そういう訳ではありませんが……、早起きしてしまったもので…………」
「せめて、お声を掛けてからでもよろしかったのでは?」
「この時間ですし、起こしたら悪いかなと……」
「……水臭いですわね」
「い、いやぁ……」
ソフィーリアはむっとした表情でぷりぷり怒り出した、可愛い。
ぶんむくれているソフィーリアを横目にタマキが一歩前に出て二つの包を野郎二人に渡しながら言った。
「これ、少ないですが食事です。後、冒険者登録はギルドで行えます、冒険者ギルドは門をくぐったら真っ直ぐ進んだ中心街にある一番大きな建物です。これからの道中、お気をつけて……」
「ありがとうございます、タマキさん。実はそれを聞き忘れたので助かりました」
「私も言い忘れていましたので……ですが、このタイミングで言えて良かったです」
タマキが用事を済ませると、今度はソフィーリアが前に出てきて優之介に対し、心配そうに別れの挨拶をしてくれた。
「ユウノスケ様、どうかご無事で……」
「そんな、今から戦争に行くわけじゃないんですから……」
「でも、せっかく仲良くなれましたのにもうお別れだなんて……、良いですか? 絶対帰って来てください! そして、旅のお話を聞かせてくださいね?」
「はい、わかりました!」
「約束ですよ? それと……ガールフレンドとかはあまり作らないでください!」
(え、何でぇ……?)と思った優之介はソフィーリアに「どうしてですか?」と普通に聞いたらソフィーリアは頬を赤らめて「ユウノスケ様は鈍感なのですね……」と小声でつぶやき……。
優之介の喉にキスをした。
「え……ソフィーさん? …………///」
「ほぅ……♪」
「~~っ///」
「ユウノスケ様、喉へキスは相手への強い欲求を意味します。『この人を離したくない』『自分のものにしたい!』と……」
「タマキは余計な事を言ってくれますわね……、私にとってユウノスケ様、貴方とお話した時間は短いものでしたがとても楽しかったです……。本当はもっともっと親交を深めてから私好みの男性にしようと思っていましたのに貴方は今、旅立とうとしています。ですから、今回はマーキングで我慢しようと思います」
「そんな、俺は色恋沙汰には縁が無い方ですよ?」(大体、斬波さんのせいですが……)
斬波が目を光らせていたことが原因だが、優之介は女性にモテた事も嫌われたこともない。
故に今までの人生で彼女なんてできたことがないので、恋愛感情は何一つ理解できなかったが、ソフィーリアが優之介に好意がある事を彼女の口から聞いた時は何故だか胸が熱くなる感覚に覆われた。
まぁ、女の子から好意に思われるのは悪くない気分だ、それも王女様で超が付くほどの美少女に。
「どうでしょうか? ユウノスケ様みたいに可愛い男性を好む女性は多そうですけどねぇ~!」
「そうですね、この世界では一夫多妻が普通ですから、再びユウノスケ様と再会を果たした時には隣に妻を名乗る女性が既にいたりして……」
「いやぁぁぁぁぁ! タマキ! なんて事を言うの!?そんな事を聞いてしまったら私もお二人の旅に同行せざるを得ませんわ!!」
((この世界、一夫多妻が普通なのかよ……))
旅の途中で家庭を持っては冒険出来なくなると考えた優之介と斬波は、予備知識程度に覚えておくことにした。
無表情で逃げるタマキをキーキー怒りながら追いかけるソフィーリア、二人を無視して出発しようかと思った野郎二人であったが、装備とか色々お世話になってる二人を無視するのも申し訳ないので、ほとぼりが冷めるまで待った。
やがて、走り疲れたソフィーリアが我に返り、ハッとした様子で優之介と斬波に振り返り話を戻した。
「ハァ……ハァ…………お話が逸れてしまいました……けど、くれぐれもご無理なさらぬように……。今度会う時は……はぁ、かっこよくなったユウノスケ様のお姿を……見せてください♪ シバ様もお元気で」
「はは……頑張ります」
「優之介の事は任せな。ところで、ちと聞きたいのだがクラウディアはどうしたんだ?」
「クラウ様はお休みになられてます、クラウ様は朝が弱いので……」
「意外な弱点があったんですね……」
クラウディアは朝が弱いと言うこの場において関係ない話で微妙な空気が漂う中、それを払拭するかのように朝日が昇り始めた。
「お、いい感じに日が昇ってきたなぁ……いい門出になりそうだ!」
「それじゃあ二人共お元気で! 行って来ます!」
「またどこかで会おうぜ!」
「行ってらっしゃい! ユウノスケ様! シバ様!」
「お気をつけて!!」
日の出と共に優之介と斬波はアースカイ王城の門をくぐる、見送りに来てくれた二人の激励を背負って。
夢咲優之介と叶斬波の冒険譚はここから始まった。
――――――――――――――――――――
「行ってしまわれましたわね……」
「そうですね……」
「ユウノスケ様……、また何処かで会えますよね?」
「殿下が公務で王城を出ることがあれば、可能性としては十分にあるかと」
「……! では今までよりも一層公務に取り掛からないといけませんわね!!」
「王女様も青春するのね」
「「…………!!」」
優之介と斬波を見送るソフィーリアとタマキの背後から、誰かが彼女達に声をかけた。
ソフィーリアとタマキが振り返ると、そこには葵が立っていた。
「アオイ・ルカワ様……」
「葵でいいわよ、えっと……タマキさんでしたっけ?」
「はい、私はタマキと申します。アオイ様は何故……?」
「普段から早起きして朝稽古をするのが私の日課だからです。タマキさんと王女様は?」
「ソフィーでいいですわ♪ アオイ様、知っててお聞きになるのですか?」
「様もいらないわ。まったく、私達にも一言言ってくれれば良かったのに、また離れ離れね……叶君」
「「……え?」」
「ささ、まだ寒いから中に戻りましょうか♪」
((…………?))
お互いの顔を見合わせ、首をかしげるソフィーリアとタマキをよそに、葵は何処か懐かしそうに、遠い目をして城下町を見下ろしていた。
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