野郎二人はフリーダムッ!?科学+魔法=オーバーキルな異世界生活
皇 竜胆
第一章 勇者じゃなくて冒険者になる!
プロローグ
二0XX年三月某日、とある青年は高校の卒業旅行で北海道に行くために東京、成田空港に来ていた。
―九時三十分発、ANA57便、新千歳空港行きが到着しました―
これから乗る予定の飛行機が到着したアナウンスが流れたので、待合室の座席に座っていた青年は同行者と共に飛行機の搭乗口へと移動した。
「いよいよですね……」
「そうだな、楽しみだ」
青年は同行者と並んで飛行機の座席に座り、出発を待つ。
―皆様、ただいまドアが閉まりました。携帯電話などの電波を発信すてる電子機器類は機内モードなど電波を発信しない設定に切のり替えていますか、電源をお切り下さい―
機内アナウンスの指示に従って青年と同行者はスマホの電源を切り、それぞれ上着の内ポケットとシャツのポケットにしまい、シートベルトを締めて離陸の準備を整えた。
数分後、いざ飛行機の離陸が完了し優之介と斬波は窓から見える景色に見とれていた。
「飛行機の窓から眺める空の景色は爽快ですね、斬波さん」
「そうだな、景色を見た感じ大気の乱れは無いし、気圧も安定している。安全で良いフライトになりそうだ」
飛行機のフライト中はシートに座ってベルトを締めているので基本的に座席に座りっぱなしなので、時間つぶしにできることは限られている。青年は持ってきていた本を読みながら、斬波と呼ばれた同行者は腕を組み目をつぶって瞑想しながら雑談をしてフライト中の時間を過ごした。
本を読んでいる青年の名前は夢咲 優之介ゆめさき ゆうのすけ、高校を卒業したばかりの十八歳。趣味は異世界転生を題材にしたライトノベルを読むことやファンタジーを舞台にしたゲームをする事で、四月から一般企業に就職する予定だ。
そして優之介の隣で瞑想をしている彼の名前は叶 斬波かない しば、社会人五年目の二十三歳で極道社会を題材にしたゲームや適度な肉体トレーニングが趣味だったが数年前から優之介の影響を受けてライトノベルに夢中になっている。職業は大手企業で技能職を一年半、研究職を二年半と複雑なキャリアを持っている。
さて、何故この接点のなさそうな二人が一緒にいるのか、さぞかし疑問に思うかもしれないが答えはシンプルだ。二人共、児童養護施設出身の孤児だからである。
優之介は三歳の頃から、斬波は物心がつく前から児童養護施設に入りそこで共に育ってきたので、生まれや名字は違えどまるで本当の兄弟の様に支えあって生きてきた二人の絆は親友を超えた領域にある。今回、優之介の卒業旅行は斬波が計画したもので、社会人になってからは自由がなくなるからその前に北海道へ旅行に行って美味しい食べ物を食べて思い出を作ろうと考えたのがきっかけだった。
(ん? なんかあの人ちょくちょくこっちを見てくるような……)
一旦読書を中断して辺りを見回して優之介はふとそんなことを思った。今現在、この飛行機には多数の乗客が乗っているが、その中の大学生と思わしき女性4人組だろうか? その中の一人が隙を伺うかのようにこちらを見てくるのだ。
(誰だろう? とても綺麗なお姉さんだけど俺は知らないし……、斬波さんのお知り合いなのかな?)
優之介と目があったその女性はすぐさま目をそらしてしまった、優之介は理由がさっぱりわからず首をかしげて不思議に思ったがまた読書に戻った。
優之介が読書に戻ってから約十五分後、フライト中の飛行機が爆発音と共に大きく揺れた。
―ドォォオオオン!!
機内は大パニック、乗客達は悲鳴を上げ混乱している、乗務員が落ち着くように呼びかけるが収まる気配がない。一体何があったのかと思いきや窓から外を眺めると左翼のエンジンから火が出ていた、先ほどの爆発音は飛行機のエンジンが爆発したものだったのだ。まさかの緊急事態に優之介も手足がガクガクと震え、読んでいた本を床に落とす。
「そ、そんな……。俺、死ぬのか……!?」
飛行機は世界一安全な乗り物だ。しかし、事故が起きれば確実に死亡事故となるのも飛行機だ。優之介の頭にはその知識がある中で、現在の状況をもう一度確認する。やはり飛行機のエンジンから火が出ている、夢であって欲しかった、しかし、残念だが現実なようだ。
「もうダメなのか……!?」
このままでは飛行機が墜落して死ぬ、しかしどうすることもできないと思った優之介はただ自分の運命を天に委ねるしかなかった。優之介は背中を丸め、両手を合わせ祈った。その時、優之介の背中を誰かが思いっきり叩いた。
「―痛っ!?」
「何生きることを諦めているんだ馬鹿野郎」
斬波だ。こんな状況でも斬波は冷静さを保って周囲の状況を確認しつつ優之介を叱咤したのだ。
「でも! エンジンから火が出てるんですよ!?」
「でもじゃねぇ! 飛行機が揺れたのは最初の爆発の時だけだ。乱気流に巻き込まれて機内が常に揺れていたら俺も死を覚悟するが、現状は違う。全く揺れないわけではないが飛行機は一応水平は保てている」
斬波が大きな声で怒鳴ったので斬波の声が聞こえた他の乗客は悲鳴を上げることをやめ機内は一度静かになった。
斬波がベルトを外し席を立つと飛行機内に設置されているマイクの元に行き、マイクのスイッチを入れて優之介を含む乗客乗員に向けてこう言った。
「エンジンが爆発したことは確かに緊急事態だ、だが人生を諦めるのは早すぎる。ここは乗務員の指示に従って俺達の命を機長に委ねるとしようじゃないか」
斬波の言葉に「ふざけるな!」「死にたくない!」と嘆く乗客達がいるが斬波はすぐさま「黙れ!」と一喝し、機内を黙らせた。
「この世に生まれた生物は遅かれ早かれいつかは必ず死ぬ、このアクシデントが原因で死んだのならその時は運が悪かったの一言でいいだろうよ。現に飛行機事故が起こる確率は0,00005%だ、これは自動車事故より確率が低い数値だ。そんな安全な飛行機を利用して事故に巻き込まれるのは本当に運が悪いとしか言い様がないだろう。少しでも助かりたいと思うなら大人しく乗務員の指示に従え」
斬波がそう言い終えると堂々と席に戻って静かに息を吐いた。斬波がマイクで放送したあとすぐさま乗務員が乗客達に指示を出し、緊急事態に備える、機内は緊張と緊迫に覆われた。
「お客様、先程は誠にありがとうございました。本来であれば私たちがしなければならない所を誠に申し訳ございません」
乗務員が斬波の元に歩み寄り感謝と謝罪の言葉を述べて去って行った。斬波もお構いなくと手を振って乗務員を見送った。
「斬波さんは凄いよ! 普通はできないって」
優之介も便乗して斬波を称えるが斬波は手でそれを制止してこう言った。
「俺は俺の出来ることをやったまでだ。緊急事態や何かしら不足の事態に巻き込まれた時、一番最初に死ぬのは冷静さを失った奴なのだ」
「そ、そうですか……」
それから数分後、飛行機は日本海の海上に不時着する事が決定し機内にアナウンスが流れると乗客達はいよいよかと身構える。しかし、海上に不時着する寸前、窓の外が急に光り始めた。その光景を見た乗客達は何だなんだとまた騒ぐが海面と飛行機がぶつかった衝撃で光りどころではなかった。
海面に不時着した時の衝撃は予想外に大きく、機体がバラバラに別れて優之介と斬波を含めた乗客が空中に放り出されてしまった。
「「うわああああああああああ!!(のぉおおああああああああ!!)」」
このタイミングで優之介と斬波と何人かが窓の外で発生した光に包まれると同時に荒波にさらわれてしまう。
その後、他の乗客達は彼らの姿を遠目で探したが見つかることはなかった。
――――――――――――――――――――
「うわああああああああああ! …………あ?」
空中に放り出されたはずの優之介はふと気が付くとどこか違う空間にいる事がわかった。
「あれ? 天井がある……。目の前が光って何も見えないと思ったらいきなり景色が青空から石造りの天井に変わったぞ? 俺は死んだのかな?」
優之介は自分の頬をつねってみる、痛みをしっかり感じるので夢でも死んだわけでもない事だけは理解できたようだ。
「ここは一体何処なんだ……?」
優之介は飛行機事故に遭い海上に放り出されたはずが、天井のある空間に居る事実を理解出来ていなかった。
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