第7話 揺らぐ気持ち
そろそろ花火大会も近くなってきて。
周りの草木も背が伸びて、いつのまにか暑さだけが気になる猛暑の日々。
川沿いにはコタローの姿が。
わんっ わんっ
男「こっちだっ。おいっ。」
男「待てってコタロー、って急に戻ってきてどうした?」
コタローは警戒心が強く木陰に人がいて逃げてきたのだ。
『あー。わかってるよっ。』
『うんっ。愛してるよ、ゆりこ。』
『あー、それじゃー。』
立ち聞きしたわけじゃないが、コタローのせいで他人の電話を聞くはめに。
男「恋ってやつだなっ。コタロー。」
わんっ
わおんっ
男「あっ、またっ、待てってー。」
わんっ
かすみ「あーっ!コタローくんっ!」
男「あっ、こんにちは。やっぱりあなただったんですねー。」
かすみ「えっ?」
男「最近あたなが見えたら、わおんって少しいつもと違う鳴き方するんですよ。」
かすみ「へー、そーなんですねっ。」
男「コタローなりの喜びかた?かな。」
かすみ「うれし〜っ!コタローくん!」
男「なんか最近明るくなりましたね。」
かすみ「私ですかっ?」
男「最初に会った頃と全然違うかな。」
かすみ「えっ?最初の印象は?」
男「僕もそうですけど、人見知りなんだなぁって感じが強くて、でも犬は好きそうで。」
かすみ「それで、今は?」
男「すごく爽やかで、楽しそう。」
かすみ「そんなに違いますー?」
男「あっ、なんとなくですよっ。」
かすみ「でも、そうかもしれない。」
男「えっ?」
かすみ「最初はコタローくんは平気だけどあなたと話すの苦手だったっていうか。」
男「ええ、それは僕なりにちゃんと気づいてましたよ。」
かすみ「でも今は話するのも楽しいです。」
男「でも1番楽しいのはコタローですね。」
かすみ「へへへっ、その通りです。」
男「そういうところですよ。変わったの。」
男「最初は笑ったりもしなかったし。」
かすみ「そうかも、です。」
男「まっ、いい事だと思いますよ。」
男「楽しい事は。」
かすみ「はいっ。そーですねっ。」
男「花火大会、もーすぐですねっ。」
かすみ「はいっ。楽しみですね。」
男「それじゃー、また。」
かすみ「はいっ!それじゃー。」
少しずつ変わり始めたきっかけは、そう、コタローだった。
この出会いから変わっていったんだ。
それからは色々素直に楽しめている。
最近は家にいるのも楽しいのだ。
ゆか「か〜すみちゃーん。」
ガラガラ
かすみ「ゆかちゃん。」
ゆか「行っていーい?」
かすみ「いいよー。」
コンコン
ゆか「おじゃましまーすっ!」
かすみ「どーぞっ。」
ゆか「最近どーなの?彼とは?」
かすみ「うん。ドライブ行ったり、水族館行ったり、映画行ったり。」
ゆか「いゃ〜ん。ノロケ話ー!」
かすみ「ゆかちゃんが聞いたくせに〜。」
ゆか「花火大会は?」
かすみ「あっ、その日は忙しいみたいで。」
ゆか「えーっ、せっかくの花火大会。」
かすみ「いいのっ。そこの川沿いで毎年見てるから。綺麗だし。」
ゆか「何時からだっけ?」
かすみ「19時半。」
ゆか「よーしっ!今年は見るぞー!」
かすみ「一緒に見る〜?」
ゆか「当然っ!そのつもりー!」
かすみ「楽しみー!」
ゆか「えっ?私だよっ。彼じゃないよ。」
かすみ「人と見る事なかったから…。」
ゆか「じゃあ、浴衣でも着るかー!」
かすみ「えっ?」
ゆか「もしや、持ってないとか?」
かすみ「いや、持ってるんだけど一度も来た事なくて、どーやって着るの?」
ゆか「よしっ!花火大会まで訓練だっ!」
かすみ「当日手伝って。」
ゆか「当日は、店閉めて走って帰ってきて自分の浴衣きたらギリだと思うの。」
ゆか「かすみちゃんは自分で出来るとこまでやれるように、私が訓練してあげる。」
かすみ「はいっ!先生!」
ゆか「うん。よろしー!」
家でもゆかがよく来るので、1人でいる事が少なくなってきた。
セイヤといる時間も多くなり。
休みはほとんど一緒にいる。
セイヤ「かすみちゃん!」
かすみ「なに?」
セイヤ「まだ、先の話なんだけど。」
かすみ「えっ?」
セイヤ「俺と結婚してくれないか?」
かすみ「えっ?え〜っ!?」
かすみ「だってまだ付き合ってそんなにたってないし…」
セイヤ「うん。うん!わかってる。でも、かすみちゃんがいいんだっ!」
かすみ「うれしいんだけど、急だから、なんて言っていいか。」
セイヤ「そうだよね。ごめんね。」
かすみ「でもうれしい。」
セイヤ「じゃあ、考えてくれる?」
かすみ「…うん。」
突然のプロポーズ。
付き合うのも突然だったが、さすがにプロポーズとなるとすぐには返事もできない。
家でボーっと考える。
ゆか「かすみちゃん!」
ガラガラ
かすみ「いいよー!」
ゆか「まだなにも言ってなーい。」
ゆか「でも正解!」
コンコン
かすみ「はーい!」
ゆか「うーむ。なんかあった?」
かすみ「えっ!?なんで?」
ゆか「ポテチ3袋目でしょっ、」
かすみ「えっ!?」
ゆか「テーブルに置きっぱだし。ゴミ。」
かすみ「はっ!バレた!」
ゆか「でっ、もしや振られたとか?」
かすみ「その逆!」
ゆか「逆とはっ!?」
かすみ「プロポーズされた。」
ゆか「はーっ!早すぎじゃない?」
かすみ「うん。私でもわかる。早すぎる。うれしいけど。だから悩む〜!」
ゆか「それでポテチねー。」
かすみ「私、どーしたらいいかな?」
ゆか「まっ、花火でも見て忘れなっ!」
かすみ「忘れてどーするのっ!」
ゆか「あっ、そーかっ。」
ゆか「でも、まずはさっ、花火大会を楽しもうっ!」
花火大会当日。
ゆかは仕事を終えてダッシュで家に。
ゆか「かすみちゃーん、準備〜。」
ガラガラ
かすみ「ばっちりー!」
ゆか「じゃあ行くかー!」
ドン ドン ヒュ〜
ドン ドン
かすみ「綺麗ねー。」
ゆか「たまや〜!」
わんっ
かすみ「あっ、コタローくん。」
ゆか「コタロー?この犬?」
かすみ「うん。友達。」
ゆか「飼い主は?」
かすみ「あれ〜、見当たらないな。」
ゆか「大丈夫なの?」
かすみ「うん。よくある事だし。」
わんっ
ゆか「すっごくなついてない?かすみちゃんに。私、なんか避けられてるような。」
ドン ドン ドン
ゆか「もー、だいぶ経つけど、犬。」
かすみ「平気、平気。きっと来るから。」
わんっ
男「あっ、コタロー!」
かすみ「こんばんはっ!」
男「こんばんは!」
ゆか「あ、こんばんは。」
かすみ「私の友達です。」
男「あっ、そうですかー。すいませんコタローがご迷惑をおかけして。」
ゆか「いやっ、私は全然。」
ドン ドン
ヒュ〜 ドン ドン
かすみ「綺麗。」
男「ええ、ホントに。」
ゆか「あっ、チカチカッて。」
かすみ「終わりの合図。」
男「綺麗でしたねー。」
かすみ「ホント綺麗でしたねっ。」
男「あっ、じゃあ僕はこれで。」
かすみ「それじゃあ、また。」
男「それじゃ。」
ゆか「ねー、誰?あの人?」
かすみ「散歩中に会った人。とコタロー。」
ゆか「私もマジで散歩しよーかな?」
花火大会はすごく綺麗で。
そして、過ぎゆく夏を感じながら。
不思議と三人で花火を見ている時、なんかすごくホッとする感じがした。
多分コタローがいたからだろう。
第8話に続く
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